- #1
- #2
ボクシングPRESSBACK NUMBER
「ボクシングを辞める? ちょっとだけ思いましたよ」井上拓真がいま明かす“あの敗戦”…無敗の那須川天心戦に向けて「俺がしっかり黒星をつけてやる」
posted2025/11/15 11:01
那須川天心とのWBC世界バンタム級王座決定戦を前にその心境を語った井上拓真
text by

二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Takuya Sugiyama
堤戦の敗因「120%の自分をつくれていない」
1年前、井上拓真は打ちひしがれていた。
2024年10月13日、WBA世界バンタム級王者として迎えた2度目の防衛戦。同じ95年生まれで過去にインターハイの準決勝で退けている堤聖也の挑戦を受け、0-3判定で敗れた。
序盤は優勢に試合を進め、堤の左目上をカットさせた。堤のパンチもクリーンヒットさせない。そのまま王者ペースで進むかと思いきや、それでも圧倒的な手数と勝負への執着を発するチャレンジャーの前に後手に回るようになる。10ラウンドにはパンチを受けた反動でロープに体を預けたシーンがロープダウンと判断された。すべてを出し切ろうとした堤に対し、すべてを出し切ることができなかった王者。敗北を覚悟するように、うなだれるしかなかった。
ADVERTISEMENT
拓真のプロキャリアでの敗北は2つ。この堤戦と、WBC世界バンタム級暫定王者として初防衛に臨んだ2019年11月のノルディーヌ・ウバーリ戦。同じユナニマス・ディシジョンでも前者と後者では意味合いが違う。ウバーリ戦は4ラウンドにダウンを奪われながらも猛チャージで、最終12ラウンドは右ショートから左フックを浴びせて相手をぐらつかせた。勝負への執着が薄まることはなかった。
あらためて堤戦の敗因を尋ねた。
「体が動かないというより動かせていない。120%の自分をつくれていない。それが(敗因として)一番大きいんじゃないかと思います。もちろん要因はいろいろとありますけど、それは自分と父のなかで分かっていることなので。それを今回(那須川天心との対戦で)しっかり活かしていきたいですね」
「ボクシングを辞める? ちょっとだけ思った」
100%では全然十分じゃない。120%までいってこその自分。だが1年前は、常時その状態をつくれるほどの安定性がなかった。
あの試合の会見では「ゆっくり休みたい」と力なく語っていた。ひょっとしたらボクシングを辞めるんじゃないか。筆者はその場にいて、ふとそんな気がした。“モンスター”井上尚弥の弟として、否が応でも比較される。かつて「自分の色とかなかった。そういう歯がゆさに、いら立ちというか」と本人から聞いた言葉が脳裏をかすめた。スーパースターの兄と比べてしまう弟の苦悩。練習が嫌いになった時期すらあった。

