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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「ボクシングを辞める? ちょっとだけ思いましたよ」井上拓真がいま明かす“あの敗戦”…無敗の那須川天心戦に向けて「俺がしっかり黒星をつけてやる」
text by

二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2025/11/15 11:01
那須川天心とのWBC世界バンタム級王座決定戦を前にその心境を語った井上拓真
1年前の心のうちを知りたかった。
「ボクシングを辞める? ちょっとだけ思いましたよ(笑)……思いました。120%の自分をつくれないまま試合に臨む自分がいるってことは、自分のなかではやめたほうがいいのかなって」
苦笑いの間がすっと消えて、落とした視線を引き上げた。
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「(試合が終わったら)1、2週間したら軽く動き始めます。でもこのときはジムにも行かなかった。何もしないで、家で家族と過ごしていました。ボクシングのことは考えなかったけど、やるかやらないかに対しては考えていました。だいぶ前の話なんで忘れましたけど、(ボクシングから)一旦、離れたかったかもしれないですね」
「ここで辞めたら絶対に後悔するなって」
高校卒業を待たずにプロになって以降、初めてと言っていい長期間のベタ休み。試合から1カ月経っても結論は出なかった。明確に「やる」と決めたのは、昨年末であった。
「敗因は120%の自分をつくれていないことだってはっきりしていたので、ここで辞めたら絶対に後悔するなって。やる以上は、同じ失敗を絶対に繰り返さないと心に決めました」
自分と向き合い続けたからこそ、心の底から「ボクシングをやりたい」と思えた。ボクシングから離れた期間があったからこそ、ボクシングへの情熱を確かめることができた。心のメンテナンスのみならず、体のメンテナンスも必要だった。というのも実は試合中に手首を痛めていた。試合が終わってもケガしていることに気づかなかったという。
「痛みはあったんですよ。まあでも放っておいたら治るんじゃないかって思っていたら全然治らなくて。病院にいったら『(手首の)靭帯が切れてますよ』と言われて、びっくりして。(患部を)動かせない時期、(パンチを)打てない時期もありましたけど、もうしっかり完治しています」
ケガもあって復帰戦が決まらない状況が続く。拓真に勝った堤が目の負傷によって休養王者となり、正規王者に昇格したアントニオ・バルガスへの挑戦が浮上したものの、回復が間に合わなかった。
試合間隔が空けば空くほど、試合がしたいという欲が強くなる。ケガが完治してからというもの、新鮮な気持ちでトレーニングに取り組めている。

