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「だから種付けはやめられない」GI未勝利“ディープインパクトの全兄”ブラックタイドはなぜ大種牡馬に?「ザ・サンデーサイレンスという感じで気性も強い」
posted2025/10/23 17:01
現在24歳のブラックタイド。ブリーダーズSSの現役種牡馬だ
text by

江面弘也Koya Ezura
photograph by
Keiji Ishikawa
発売中のNumber1129号に掲載の[GI未勝利の大種牡馬]ブラックタイド「『ひょっとしたら』が想像以上に」より内容を一部抜粋してお届けします。
名種牡馬と両親がおなじ「全兄弟」というと、偉大な兄や弟の“七光り”で種牡馬となるケースが多いが、種付けをする生産者は、おなじ血統の種馬に「ひょっとしたら」と期待を膨らませる。過去にもノーザンダンサーの弟(ノーザンネイティヴ、トランスアランティック)をはじめ、ニジンスキーの弟(ミンスキー)、ボールドルーラーの弟(ナスコ)、アリダーの兄(ホープフリーオン)など世界的な大種牡馬、名種牡馬の全兄弟が輸入され、近年でもフランケルの全弟ノーブルミッションが日本で種牡馬になっているが、残念ながら、血統ほどに活躍できていないのが現実である。
ところが、輸入種牡馬でなく、国産の全兄弟種牡馬が驚くべき成功をおさめた。
ディープインパクトの兄ブラックタイドである。息子のキタサンブラックからイクイノックスがでて、ソールオリエンス、クロワデュノールもクラシックに勝ち、父のサンデーサイレンスから数多く枝分かれした種牡馬の系譜のなかで、いちばん太いサイアーライン「ブラックタイド系」を形成する可能性さえでてきたのだ。8年前、キタサンブラックの取材でブリーダーズ・スタリオン・ステーション(北海道日高町)を訪れブラックタイドの話を聞いたときは、まさかこういうことになるとは想像もしなかった。
高齢種牡馬のいま
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ブラックタイドは24歳になった。シンジケート(種牡馬の共有組織)は2022年の種付け後に解散となったが、いまでもブリーダーズSSで種牡馬をつづけており、スタリオンの奥まったところにある“ひとり馬房”で自由気ままに生活している。以前は出国検疫厩舎だった場所で、一時期、ゼンノロブロイが功労馬として過ごしていたこともあるという。
さすがに落ちた背は年齢を感じさせるが、真っ黒に輝いた体を見ていると、とても高齢種牡馬とは思えない。
「種付けはほかの種馬よりも元気ですよ」
ブリーダーズSSの場長、坂本教文は言った。坂本は大阪出身の53歳。普通の競馬ファンだったが、勤めていた会社をやめて北海道に渡り、生産牧場で働いたあとブリーダーズSSに入社して26年になる。
「ザ・サンデーサイレンスという感じで、気性も激しいです。スイッチがはいったらバーンと立ちあがったりしますけど、危なくはない。わざとやっている感じで、人のことを上から目線で見ている(笑)。でも、いまサンデーサイレンスの直仔の種牡馬はタイドだけですから、若いスタッフにはサンデーの直仔に触れるのは貴重な経験だよ、と話しているんです」

