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〈秘話〉有馬出走直前「おい、お前オグリキャップやからな」 武豊の一喝が“芦毛のアイドル”を伝説の名馬にした
posted2021/09/04 17:01
text by
秀間翔哉Sanechika Hidema
photograph by
Tomohiko Hayashi
地方競馬・笠松からの中央挑戦で、日本中のファンを虜にした稀代のアイドルホース・オグリキャップ。可愛らしい芦毛とその強さは、社会現象にまで及ぶほどだった。しかしそのオグリも中央参戦3年目で6着・11着と連敗、ついに引退の日が近づく。多くの人が見守るオグリのラストラン、その背中には天才・武豊騎手が跨っていた。もう闘志を失ったとさえ言われていたオグリキャップの物語が、最後の最後でもう一度息を吹き返す。若き天才が、芦毛のアイドルを伝説の名馬オグリキャップへとエスコートした。
競馬を愛する執筆者たちが、90年代前半の名馬&名レースを記した『競馬 伝説の名勝負 1990-1994 90年代前半戦』(星海社新書)から一部を抜粋して紹介する。〈オグリキャップ編/イソノルーブル編を読む〉。
◆◆◆
2011年のブリーダーズCクラシックではティズナウが前年に続く連覇を飾って9・11同時多発テロに悲しむアメリカ国内に大きな感動をもたらし、11年にはヴィクトワールピサが日本馬として初めてドバイWCを制して東日本大震災の傷が癒えぬ日本に勇気を与えた。競馬には、人の心を動かす大きな力があると思う。
私には自分を奮い立たせたいときに、決まって見返すレースがある。そのレースはいつ何度見ても、身体の奥底から色鮮やかな感情が湧き出て鳥肌が立ち、活力が溢れてくる。
90年第35回有馬記念。言わずと知れたあのオグリキャップの引退レースである。
連敗、惨敗…世間で流れた「オグリ終了」
88年に地方競馬から中央競馬に移籍し、数々のタイトルを積み上げてきたオグリキャップだったが、90年秋に天皇賞・秋で初めて掲示板外となる6着に敗れると、ジャパンカップでは2ケタ着順に沈んでいた。
それまで彼を持ち上げていたマスコミが一転して、批判的な内容に変わっていった。「有馬オグリ出るの⁉︎」、「オグリだめか」などといった見出しが連日のようにスポーツ紙の見出しを占領すると、あれだけ熱狂的だった世間の風向きも悲観的なものに変わり、ついには馬主のもとにオグリキャップの引退を迫る脅迫文が送り付けられる始末だった。
──オグリキャップは終わった。そんな空気が日本に蔓延していたと言える。
そして迎えた有馬記念。オグリキャップが支持された4番人気単勝5・5倍というオッズの中に、その勝利を確信していた投票がどれだけ含まれていただろうか。