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「国際大会の価値は出場することではなく…」世界陸上“最も悔しがっていた日本選手”は誰だった? 慶応大卒「195cmの大器」が世界の舞台で輝く日
text by

生島淳Jun Ikushima
photograph byNanae Suzuki
posted2025/09/23 11:02
レース後、地面をたたいて悔しがる400mハードル代表の豊田兼。全日程を通してもこれほど感情をあらわにする選手はいなかった
これには解説が必要だろう。
400mハードルでは、全部で10台が設置される。もともと豊田は、終盤の8台目までを13歩で走り、残りの2台を15歩に変えていた。
400mのハードラーは後半に入ってから逆足に変えて1歩増やすだけの選手も多いが、豊田は逆足での踏み切りに苦手意識があるため、13、15という奇数での踏み切りにしていた。
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予選突破のためには、少なくとも8台目までは確実に13歩で行きたいところだったが、前半、突っ込んだことで脚に疲労が溜まったのか、13歩ではカバーしきれなかった。ハードラーはリズムが命。自分のリズムを崩してしまっては、バタバタになってしまう。
トラックで見せた尋常ではない悔しがりようは、世界と勝負に行き、そのプランを遂行できなかった自分への怒りだったのか。
他の選手とは違う異様な雰囲気だったためか、ミックスゾーンでの時間は担当者が早々に切り上げたほどだった。
195cmの長身、18年ぶり好記録…ただならぬ「素質」
昨年、慶応義塾大学の4年生だった豊田は、一躍、日本の注目選手の一角に躍り出た。
5月のセイコーゴールデングランプリ400mハードルで48秒36という日本歴代5位の記録をマーク。すると6月日本選手権でも、勢いそのままに日本歴代3位となる47秒99の記録で優勝を果たしたのだ。
日本人選手としては18年ぶりの47秒台という好記録で、父の故郷で開催されるパリオリンピックへの切符も手にした。何より195cmの長身を活かしたダイナミックなハードリングは、これまでの日本選手では見たことがないスケール感があった。

