スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「国際大会の価値は出場することではなく…」世界陸上“最も悔しがっていた日本選手”は誰だった? 慶応大卒「195cmの大器」が世界の舞台で輝く日
text by

生島淳Jun Ikushima
photograph byNanae Suzuki
posted2025/09/23 11:02
レース後、地面をたたいて悔しがる400mハードル代表の豊田兼。全日程を通してもこれほど感情をあらわにする選手はいなかった
この夏のヨーロッパでの転戦ぶりを見ると、世界陸上出場への揺るぎない思いが伝わってくる。豊田自身もこんな風に話していた。
「国際大会での価値は出場することではなく、自身のパフォーマンスを最大限発揮することだと思っているので、これまでの経験が世界陸上の決勝までの過程だと捉え直して、練習しています」
それだけに、今回の国立競技場での自分のパフォーマンスは受け入れられないものだったのだろう。
「むき出しの感情」は未来の糧に…
ADVERTISEMENT
今回ミックスゾーンで感じたのは、みんな感情を器用に包み込み、報道陣の前では無難な言葉を選んでいた。
それは今回の世界陸上に限った話ではなく、どの競技でもそうだ。プロ野球のヒーローインタビューなど無害の象徴だが、アスリートから無難なコメントが増えているのは、現代の日本社会の要請、鏡である。SNS時代、余計なことは言わない。無難に、安全に。
そんななかで、レース後に見せた豊田の「野性」には惹かれるものがあった。落胆、失望、怒り。そんなむき出しの感情を見せる選手を、久しぶりに見た。
豊田兼が見せた悔しさが、必ずや未来の糧になると信じたい。あの感情表現には力がある。きっと、なにがしかのことにつながるに違いない。
来シーズン、豊田兼の「8台目の13歩」がどうなるのか、見守っていきたい。

