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「国際大会の価値は出場することではなく…」世界陸上“最も悔しがっていた日本選手”は誰だった? 慶応大卒「195cmの大器」が世界の舞台で輝く日
posted2025/09/23 11:02
レース後、地面をたたいて悔しがる400mハードル代表の豊田兼。全日程を通してもこれほど感情をあらわにする選手はいなかった
text by

生島淳Jun Ikushima
photograph by
Nanae Suzuki
走り終えて、トラックに拳を叩きつけていた。大声を出していた。なにかの感情に突き動かされて、怒っているように見えた。
男子400mハードル、予選5組8位。
豊田兼、記録51秒80で予選敗退。
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9日間行われた世界陸上に出場した日本の選手の中で、いちばん悔しがっていたのが豊田だった。
他の選手とは違った豊田の「感情表現」
日本の選手たちは、結果が目標に届かなかったとしても、地響きのような声援をおくる大観衆、そしてこれまで自分をサポートしてくれた人たちへの感謝を話す選手が多かった。
それはそれで地元開催らしい言葉の選び方ではある。また、4×100mリレーで右足が攣ってしまい、思うような走りが出来なかった桐生祥秀のように、自分に失望しながらも粛々と原因を語ったのは、それはそれでベテランらしい潔さがあった。
一方で、豊田の感情表現は誰とも似ていなかった。明らかに違っていた。そこにはなにか伝わるものがあり、彼の言葉を聞くべく、ミックスゾーンへと向かった。
ミックスゾーンでは立って話す選手が多い中で、豊田はパイプ椅子に座った。
「憔悴」という単語が浮かんだ。疲れ切っているというか、それだけでは言い表せないほどの落ち込みようだった。それでも、51秒80というタイムを振り返る豊田の言葉は明晰だった。
「海外の選手たちに負けないよう、前半から突っ込んでいく想定でした。ハードル間を13歩で押し切ろうと思っていたんですが、8台目を13歩で押し切ることができず、直線に入るところでリズムが崩れてしまって、うまくいかなかったです。思いのほか脚が回りませんでした」


