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「全国大会の表彰台とスタンフォード大合格」が目標の選手も!?…競泳リレーでインターハイ出場《東大合格150人》開成水泳部に見る「主体性」
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別府響Hibiki Beppu
photograph byTadashi Hosoda
posted2025/09/11 11:05
史上初となるメドレーリレーでのインターハイ出場を決めた開成高のスイマーたち。なぜか彼らは制約も多いはずの超進学校で実力を伸ばせたのだろうか?
目標が「全国の表彰台と理3合格」と聞けば、たいていの人は「そんなの無理」と言うだろう。全国有数の泳力がありながら、「学内行事のためにちょっとギアを落としたい」と言えば、多くの人は「もったいない」と口にしてしまう。
だが、周囲の環境が奏功してか、そうした彼らの主体性を揺るがす人間がいなかった。それも彼らがここまで競泳で力を伸ばせた大きな理由だと感じた。
「勉強ばかりしていると思われがちですが…」
顧問の吉野修司はそんな開成の校風をこんな風に表現する。
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「どうしても開成と聞くと、勉強ばかりしているんじゃないかという固定観念で見られがちです。でも、実際にはそういう生徒のほうが圧倒的に少ない。勉強はもちろんベースにありますが、それだけだと学内で『カッコいいやつ』にはなれないんだと思います。
スポーツでも、趣味でも……誰もできないことをやるのがスゴいという価値観はあると思うので、この子たちにとってはそれが競泳だったということだと思います」
8月。広島で開催されたインターハイで、開成チームは出場64チーム中、59位という結果だった。タイムも関東大会と比べ5秒近くも落とし、全国大会という大舞台の洗礼を浴びる結果となった。ただ、個人種目では結果を残した滝沢はこう振り返る。
「タイムは落としてしまったんですけど、リレーに関してはみんなで出場するだけで価値があったと思います。個人で大会期間を過ごすのと、みんなで一緒に行くのとではメンタル面で全然違いますから」
4人にとって、ひとまずは目標としていた全国の舞台に立てたことそのものに大きな意味があった。また、岡本に関しては「関東大会以降はクラブでの活動をひと段落させて、水泳部の活動で日本泳法の合宿にフル参加していた」という中でもあったため、状況的な難しさがあった面もある。
一方で、高本と中出の1年生コンビにとっては収穫も多かった。
「全国大会に行く選手のためのスイミングクラブでの強化合宿もあって。これまでは知らなかった速い選手と知り合いになれたりもして、すごくいい経験になりました」(中出)
「今年の結果を見て、やる気のある後輩が入ってきてくれないかな……とちょっと欲が出てきました」(高本)
抜けるのが岡本1人だけということを鑑みれば、来年以降はリレーでも全国でさらに上位に――と夢見るのは、当人たちだけではないだろう。もちろん入学のハードルがある以上、厳しい現実もあるだろうが、可能性はゼロではない。
なにより彼らには前人未踏の扉をこじ開けたという、確固たる自信の積み上げがある。果たして彼らはこれから、競泳界にどんな衝撃を与えてくれるだろうか。


