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クイズのために「偏差値78の名門校」から「偏差値44の特色校」に転校…!? 伊沢拓司と田村正資に憧れて『高校生クイズ』を制した双子の青春秘話
posted2025/09/09 11:00
2018年の『高校生クイズ』で優勝し、現在はQuizKnockに所属する東問と東言
text by

別府響Hibiki Beppu
photograph by
Nanae Suzuki
多くのドラマを紡いできた高校生クイズ。43年の歴史の中でも異色のコンセプトとなった2018年大会は「双子の天才プレーヤー」を世に放つことになった。伊沢拓司らに憧れ、競技クイズに人生を懸けた兄弟が歩んだ、波乱万丈の旅路とは?《NumberWebノンフィクション全4回の初回/第2回、第3回、第4回に続く》
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「これ――ヤバいかもしれないなぁ」
鹿児島ラ・サール高1年生だった東問は、県予選敗退に終わった2017年夏の『高校生クイズ』の後、ふとそんなことを考えていた。
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目の前にあった数字は、38位。「惨敗」と言っていい結果だった。
ラ・サールと言えば、高校クイズ界では言わずと知れた名門のひとつである。『高校生クイズ』での優勝はもちろん、全国大会への出場回数も全国トップクラス。この年までも実に11大会連続での全国出場を果たし、競技クイズの世界でも多くの有力選手を有していた。
ところがこの年、ラ・サールは問のチームだけでなく、他の選手も含めて全国大会に進むことができなかったのである。
波乱の大きな理由は、ライバル校の破天荒な動きによるものだった。問が振り返る。
「当時、『高校生クイズ』はいまと違って2人1組での出場でした。そこに鳳凰高校という学校が毎年、授業の一環としてめちゃくちゃ大量のチームで参加してきていたんです」
「もしこの形式が来年も続いたとしたら…」
何台もの大型バスで会場にやってきたライバル校の100人を越える生徒たちは、もちろん競技クイズのプレーヤーではない。ただ、当時の『高校生クイズ』は、その数年前の“知力の甲子園”と題した難問路線から舵を切り、出場者を増やすべくかつての“知力・体力・時の運”を標榜した『ウルトラクイズ』のような手つきの設問を増やしていた。
「○×問題とかも多くて、純粋な競技クイズ的な実力以外の要素も多かったんです」
基本的には各県1位のチームが出場する当時の『高校生クイズ』は、運の要素が大きければ大きいほど母数が多い学校が圧倒的に有利になる。結果的にラ・サールの面々は鳳凰の物量を前に、完全に捻じ伏せられてしまった。
そして、そこで問はある懸念に気付いてしまう。
「もしこの形式が来年も続いて、鳳凰もずっと同じスタイルで来るなら――これは本当に全国に出られずに高校生活が終わってしまうのかもしれない」
それは幼いころから描き続けてきた夢への道筋が、急速に薄れ始めてきたことを意味していた。
◆
そもそも問がクイズに興味を持ったのは、小学校時代だった。きっかけは当時の『高校生クイズ』である。

