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「広陵問題を“いじめ”と呼ぶのは違和感がある」暴力が生まれる“野球部寮の実態”とは?「カップ麺禁止だけでなく…」“謎ルール”が存在する根本的な理由
posted2025/09/01 11:02
今夏の甲子園の開会式にて。広陵高校は1回戦勝利後に辞退を発表した
text by

松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Sankei Shimbun
◆◆◆
約100年間ずっと続いてきた「野球部寮での暴力」
アマチュア野球における体罰や暴力の歴史を膨大な資料とともにたどり、実証的に考察した著書『体罰と日本野球』があり、この分野の第一人者である高知大学准教授・中村哲也氏は、「広陵高校野球部の暴力事案は、構造的な要因から生じた問題の一つ」だと指摘する。
さらには歴史的に続いてきた構造であり、特に「寮生活と暴力」には切り離せない関係があるという。
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「寮ができた頃から、体罰や暴力は起こっていたことが資料から読み取ることができます。最初に野球部寮を作ったのは早稲田大学で、1925年のこと。グラウンドの近くに寮があれば練習しやすいという利便性に加え、チームの結束を固めるため、といった理由からとされています。
背景には、東京六大学野球や中等学校の野球大会の人気の高まりがあり、1920年代にはラジオ放送が始まっている。有名選手は自分の名前が全国中継で伝えられ、地元のスターになるし、現在のプロ野球選手みたいに女優と付き合ったり……といった話が出てくるくらいの著名人になる。のちにプロ野球ができると、高給をもらって野球が続けられる環境も出てきます。
このように社会的注目が高まっていくと、いかに効率よく練習して強くなるかという視点が学校側にも生まれてきた。そして寮も誕生していったわけです」
――先ほど、寮の誕生と時を置かずして暴力も発生していたと言っていましたね。
「強くなるという大目標のもとで、チームの規律や和を乱す行動には制裁が加えられやすくなります。だから単一の部活の閉鎖的な寮では問題が起きやすい。実際、1930年代には寮での体罰や暴力の事例が数々みられます」

