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野球クロスロードBACK NUMBER
14年ぶり甲子園にカムバックの“やくざ監督”…広陵問題で「陰から文句を言うのは卑怯」発言の真意は? 73歳の最年長指揮官が「野球は素人」と語るワケ
text by

田口元義Genki Taguchi
photograph byJIJI PRESS
posted2025/08/25 11:06
14年ぶりに甲子園に戻ってきた島根・開星高の野々村直通監督。73歳になってもなお、舌鋒の鋭さは変わっていなかった
広陵の暴力事案で浮き彫りとなったのが、SNS時代におけるリテラシーの必要性である。真偽不明の情報が瞬く間に広がってしまう。そのことへの警鐘を、野々村らしく無骨に展開していた。
「僕はSNSを使わないんだけど、陰から文句を言うのは卑怯でね。うちにも匿名で手紙が来るけど、スタートから『名を名乗れ! 批判するなら出てこい』と。『我こそは出雲の国の野々村であるぞ。いざ尋常に!』って戦うわけじゃないですか。それが武士道でしょ」
「野球は素人」…その言葉のワケは?
前身の松江第一を含め開星を10度の甲子園へと導く島根の名将は、14年ぶりに帰ってきた甲子園で「野球は素人ですから」と何度も言っていた。それはきっと、半分は冗談で、もう半分は本気であるはずだ。
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野々村の根幹にあるのは、豊かな人間作りである。歯に衣着せぬ鋭い論調も、全てはこここへと繋がっている。
「うちの野球部では、毎年ひとりは自衛隊員になっていますから。プロ野球選手も国民の娯楽という意味では素晴らしいけど、自衛隊員とか消防隊員、警察官というのは国のため、国民のために身を挺して頑張る。『プロ野球選手になって大儲けしたいです』っていうやつより、そういう仕事に就いてくれたほうが僕としては嬉しいですね。
甲子園だって、行ける年と行けない年があって。じゃあ、行けなかったらダメなのか? といったらそうじゃない。目指すことが大事であってね。そこで人として成長して『自衛隊に入って人助けをします』と言ってくれたら、それだけで教育は成功じゃないですか」
野々村は甲子園での取材時間の多くを、「人間論」や「教育論」に費やしていたような気がする。そうなってしまったのは、我々、報道陣が仕向けてしまった一面も否めないが。
「日本人として、こういうことも萎縮せずに報道してほしいなと思います。『そういう考えもあるよな』ってことをね」
高校野球のご意見番であり「やくざ監督」と呼ばれる男――。
野々村のような異端も受け入れられるからこそ、やはり甲子園は面白い。
そして、実はそんな男の考え方には、27年前の「ある出来事」が大きな影響を与えているのだという。
<次回へつづく>

