草茂みベースボールの道白しBACK NUMBER

「戦闘開始」魔曲が起こした甲子園の奇跡〈9回2死4点差から逆転サヨナラ〉東邦エース・藤嶋健人が語る「7イニング制なら負けていた」あの激闘 

text by

小西斗真

小西斗真Toma Konishi

PROFILE

photograph byJIJI PRESS

posted2025/08/16 17:00

「戦闘開始」魔曲が起こした甲子園の奇跡〈9回2死4点差から逆転サヨナラ〉東邦エース・藤嶋健人が語る「7イニング制なら負けていた」あの激闘<Number Web> photograph by JIJI PRESS

“魔曲”が劇的な展開を生んだ2016年大会の八戸学院光星ー東邦

「あの回が始まるときから、応援はすごかったんです」と藤嶋は回顧する。控え部員や保護者だけでなく、マーチングバンド部やバトントワリング部にとっても「最後の応援になる」という思いはあったことだろう。1番から始まる好打順。目の前を打つ3番打者のタイムリーで、3点差に詰め寄った。藤嶋に回せば何とかなる。仲間はそう思ったはずだったが、藤嶋の打球はセンターのグラブに収まった。

「ああ、やっちゃった。高校野球、終わっちゃったな……。そう思ったことを覚えています」

「体験したことのない空気に」

 あきらめた顔はしないが、心の中ではあきらめていた。無理もない。2死一塁。相手も大きな山を越えたと感じていたことだろう。しかし、ここから試合は動いた。いや、球場が動かしたといってもいい。5番がヒットでつなぐ。この時点で光星側のアルプススタンドを除く大部分の観客が「東邦ファン」と化し、タオルを回していた。

ADVERTISEMENT

「いやもう、すごい雰囲気になってました。みんなが僕たちを応援してくれている、みたいな……。体験したことがない空気になっていましたね」

 6番のタイムリーで2点差。あとアウトひとつなのだが、高校生には過酷なムードになっていた。捕手はタイムを要求したが、すでに守備側のタイムの回数は使い果たしており、伝令を出すことも集まることもできなかった。7番の二塁打で同点。そして8番がサヨナラ打。壮絶な幕切れだった。

7イニング制なら負けていた試合

「応援がなければ、吹奏楽というものが野球になければ、僕たちは負けていた」

 藤嶋は魔曲の恐ろしさを肌身で感じている。2死一塁まで追い詰められながら、奇跡の4連打で逆転サヨナラ。人生でめったにない体験をした藤嶋に、ぜひとも尋ねたいことがあった。

 この試合は7回終了時点では9対4。高野連が検討を進めている7イニング制への移行後なら、奇跡など起こらずあっさりと終了していたことになる。

【次ページ】 「野球そのもののスタイルも変わる」

BACK 1 2 3 NEXT
#豊橋中央高校
#東邦高校
#藤嶋健人
#八戸学院光星高校
#中日ドラゴンズ

プロ野球の前後の記事

ページトップ