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「戦闘開始」魔曲が起こした甲子園の奇跡〈9回2死4点差から逆転サヨナラ〉東邦エース・藤嶋健人が語る「7イニング制なら負けていた」あの激闘
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小西斗真Toma Konishi
photograph byJIJI PRESS
posted2025/08/16 17:00
“魔曲”が劇的な展開を生んだ2016年大会の八戸学院光星ー東邦
「僕たちがああいう試合を勝てたからではなく、7イニング制には反対ですね。やっぱり野球は9回っていう思いが強いですし、僕のようにプロではなくても、大学や社会人に進んで野球を続ける子にとっては、やっておく方がいいと思います。そうじゃなく、高校で終える子にとっても2イニング短くなると、控えの子が出る機会もそれだけ減ってしまう。もちろん暑さ対策、夏場対策はより必要ですが、7回はどうかなと……」
「野球そのもののスタイルも変わる」
ちなみに今夏は49代表が初戦を終えた第8日までの25試合で「7回終了時にリードしていた側が負けた」のは、1試合しかない。9回に追いつき、タイブレークで綾羽が高知中央を振り切った試合である。もちろん7イニング制を採用しても最終回の大逆転はあるだろうが、9イニングを維持することは、1人でも多くの部員の出場機会を確保する上でも意義がある。さらに藤嶋は続けた。
「野球そのもののスタイルも、間違いなく変わりますよね。4番より1、2番を打たせて打順が回りやすいようにするでしょうし、エースは完投の野球に戻るかもしれません。もちろん変わることが悪いと決めつけるわけではありませんが」
変わるものと「変わらぬ伝統」
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7イニング制&DH制になれば、第2、第3の藤嶋は「1番・DH」で先発マウンドに上がることになりそうだ。
「指名打者に関しては、出られる子が増えたり、二刀流がより広がったりと、いいことだとは思います」
あの大逆転があった9年前を最後に、東邦は夏の甲子園から遠ざかっている。タイブレーク、投球数の制限、継続試合、低反発バット、そして指名打者制。この間に高校野球は改革と変化を続けている。激動の9年間。“魔曲”の後押しを受けた豊橋中央は、惜敗で甲子園を去ったが、その背中には温かい拍手が降り注いでいた。敗者を称える。その文化だけは変わらぬ伝統であると信じたい。

