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久保建英になぜキャプテンを?「あの夜、森保監督が部屋を訪ねてきて…」プレミア王者リバプール遠藤航32歳が考える「監督と主将」理想の関係
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小野晋太郎Shintaro Ono
photograph byJFA/AFLO
posted2025/08/15 11:00
2023年からサッカー日本代表のキャプテンを務める遠藤航(32歳)
6月の最終予選、インドネシア戦の前日会見。メディアから、控え組中心で挑んだ直前のオーストラリア戦でキャプテンマークを巻いた鎌田大地についての質問がとんだ。腕章をまくことでいつもとは違う形でリーダーシップを発揮した鎌田に対し、遠藤は「大人になりましたね」と笑わせたあと、「鎌田だけでなく、一人一人がそのつもりでやることが日本の為になる」と発言した。
その夜だった。突如、森保監督が一人で遠藤の部屋の扉をたたく。森保監督は大事なことはいつも1対1で話す。
「航、明日の試合は(久保)建英にキャプテンを任せようと思うんだけど、いいかな?」
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この試合、遠藤はスタメン出場する予定だった。ピッチに主将がいるにもかかわらずキャプテンマークを他の選手に渡すというのは、スポーツシーンにおいてそう多くはない。ましてや、遠藤は日本代表の主将で、インドネシア戦は大観衆で埋まるホームゲームの公式戦だ。考え方によっては「リスペクトを欠いた行為」と受け取られても致し方ない。
だが、遠藤の主語はいつもチームにある。
今、日本代表でまさに一つ殻を破ろうとしている久保が、このタイミングでキャプテンを経験することがどういう経験になるか……。すぐにその意味を理解し「わかりました」とだけ伝えた。監督がわざわざ部屋に来て、直接声をかけてくれること。それこそが敬意であることも瞬時に理解した。
「監督と主将」理想の関係
一人で部屋に残り、考えた。森保監督がいつこのマネジメントを考えたかはわからないが自分の会見を隣で見た上で、最終の決断をしたのは間違いない。
「柔軟な対応ができる……監督とキャプテンの関係だな」
自分事にもかかわらず、客観的に考えてしまう自身を振り返り笑ってしまった。良い関係性が築けていると思った。
カタールW杯が終わり少し経ち、森保監督はすぐにキャプテンを決めなかった。迷っているのかも……と感じた遠藤は最終的に主将を打診された際「自分を試合に出すことを決めなくていい。キャプテンだからといって、決断にも気を遣わないで良い」と最初に伝えている。普通ならば、新キャプテンお披露目を考えても、先発に起用するだろう直後の試合、遠藤はベンチスタートだった。それが、森保と遠藤の覚悟の始まりだった。
遠藤は長くサッカー界にいる中で、チームが新たな挑戦をした方が良いときに「動けない」指導者をよく見てきた。レジェンド、エース、そしてキャプテン。さまざまな立場を考慮するが故、決断に迷う指揮官の辛さを知っていた。そしてそれがチームにとっては、時に良くない方向に進むことがあることも……。
だが、今の森保監督と遠藤主将は「日本代表」にとって何が最適解かだけを考えて行動する。それをお互いがわかっているからこそ、森保は「人間関係」によって考えを狭められることなく、決断できる。遠藤は会見を思い出し、やっぱり発する言葉についても大切にしようと眠りについた。
「キャプテンが自分から試合に出なくていいって監督に言ってるのは見たことないです。でも俺は本心で日本の為を想ってそれが最適解なら、言うことができる。監督側の決断を理解することもできるんです。全ては、W杯優勝のためにやってるから。もちろん選手としては俺を使った方がその試合は勝てるって、いつも思ってますけどね(笑)」


