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マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「エンジョイ・ベースボール」は“高校野球を変えたのか”問題 あの“旋風”から2年…甲子園は出られずとも関係者が「慶応はスゴい」と語るワケは?
text by

安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNanae Suzuki
posted2025/08/12 11:02
2023年、エンジョイ・ベースボールをスローガンに夏の甲子園を制した慶応高校。一方で、その後は全国の舞台に届かずにいる
プロ野球関係者からも、話が聞けた。
「エンジョイ・ベースボールが合理性の野球だとすれば、古典的な高校野球は精神性の野球かもしれないですね。つまり、やればやるほど上手くなる。反復量の追求。野球っていうのは、高い技術が求められるスポーツですから、それには単調な繰り返しで、肉体的にも苦しい反復練習が必要不可欠。
そういう意味では、本当は野球って、みんなが好ましいと思って、そうありたいと思っても、<エンジョイ>がなかなか広がりにくいスポーツなのかもしれないですね」
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あの年の慶応高が、エンジョイのスタイルで全国を制したのは紛うことなき事実だ。だが、それがその後、精神性の野球を凌駕しきらなかったのも、また事実である。こう言っては身もふたもないかもしれないが、やはり指導に「絶対的な正解」というのは存在し得ないのだろう。
ライバル校も「慶応さんは凄いな」…そのワケは?
そして、ようやく「神奈川」に見解を語ってくれる指導者の方を見つけた。
「確かに、この2年間ですか、甲子園には出てないかもしれませんけど『慶応さんはスゴいな』といつも思うのが、あの(甲子園優勝)後も、チームのムードがぜんぜん変わっていないことなんですよ。一度全国制覇なんかしちゃうと、『またしなきゃいけない!』みたいに、義務感じゃないけど、妙に悲壮感が漂っちゃったり、深刻になったり、チームが重苦しい雰囲気になるものじゃないですか。
慶応さんには、それがない。まったくない。あくまでも、慶応は慶応。まず、自分たちのスタイルで野球をするのが最優先みたいなところに、逆に凄みを感じるんですよ。『まあまあ、そうあわてなさんな、このスタイルでやってれば、いずれまた甲子園でしょ』みたいなね。自分たちのエンジョイ・ベースボールっていうスタイルを信じて、決してブレない。数年後には、またああいうチームを作って、自分たちが太刀打ちできないような試合をするんじゃないか。内心、そんな気がしてるんですよ、私」

