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「妻の支えなしには成し得なかったですが」vs藤井将棋の初タイトル戦、杉本和陽33歳が語る「亡き師匠は…何て言ってくださるんでしょうね」
text by

大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph by日本将棋連盟
posted2025/08/10 11:02
棋聖戦の3局で藤井聡太七冠と向き合って、杉本和陽六段は何を感じたか
「う~ん、何て言ってくださるんでしょうね。師匠のご自宅にタイトル挑戦のご報告で伺った際に、奥様がすごく喜んでくださったんです。和服も何着か出してくださって、扇子とかも『全部持ってっていいわよ』と。こちらも調子に乗って『師匠はどんなスーツを着られていたんですか?』と尋ねたら、『あら、スーツも見ていく?』と見せてくださって。生地のよさそうなものが沢山あったので、『これもいいですか?』とさらに調子に乗っていたら、妻が私の服の袖を引っ張って、調子に乗るなという合図をしてきました(笑)」
――ハハハ。
「3着ぐらいいただこうとしたんですけど、さすがに1着だけにしました。何事にも限度というものがあるみたいです(笑)」
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――(笑)。奥様は将棋がわかるんですか?
「あまりわからないのですが、ABEMAで評価値などを見て一喜一憂していたようです」
妻の支えなしには成し得なかったですが
――タイトル戦が終わった後、どんな声をかけてくれましたか。
「頑張ったね、みたいな感じですかね(笑)。でもこういう話ってあまり好きじゃないんです。今回の挑戦は妻の支えなしには成し得なかったことですが、それを家族愛のような感じに仕立て上げられることには恥ずかしさを感じます。勝負師がその背景を晒すことに抵抗があるのかもしれません」
――美談的なものはあまり好きではないんですよね。
「そうですね。自分は奨励会時代が長くて25歳で棋士になったので、苦労人というような美談にしていただくこともあるんですけど、単純に自分が頑張っていなかっただけなので。しかも苦労人って別に褒め言葉ではないですよね」
――最後に改めて今後の目標について聞かせてください。
「タイトル戦に出たのに他がパッとしないままだと、すぐに忘れ去られてしまうでしょう。1年たったらただの人になっているかもしれないので、危機感を持たないといけません。年齢も30代半ばに差しかかりますので、残り時間はそれほど多くない。またタイトル戦の時のように自分にスイッチを入れて、新しいことに取り組んでいきたいです」〈第1回からつづく〉

