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「妻の支えなしには成し得なかったですが」vs藤井将棋の初タイトル戦、杉本和陽33歳が語る「亡き師匠は…何て言ってくださるんでしょうね」

posted2025/08/10 11:02

 
「妻の支えなしには成し得なかったですが」vs藤井将棋の初タイトル戦、杉本和陽33歳が語る「亡き師匠は…何て言ってくださるんでしょうね」<Number Web> photograph by 日本将棋連盟

棋聖戦の3局で藤井聡太七冠と向き合って、杉本和陽六段は何を感じたか

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大川慎太郎

大川慎太郎Shintaro Okawa

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日本将棋連盟

藤井聡太七冠(23歳)の将棋と向き合う棋士は何を感じるのか。初のタイトル挑戦となった棋聖戦で絶対王者に挑んだ杉本和陽六段(33歳)が単独取材に応じてくれた。〈NumberWebインタビュー/全3回の3回目。初出以外の肩書・段位は省略〉

「今シリーズで最も印象に残る」一局を語り尽くす

 開幕からの2連敗で後がなくなった杉本だが、うつむいてはいなかった。第3局は10日後にやってくる。挑戦が決まってからできていなかったという、奨励会員とのネットのVS(1対1の研究会)も再開させていた。中・終盤力の強化のために、詰将棋も普段より多めに解くようにした。

「連敗を引きずる間もなかったです。第3局は先手中飛車を採用するつもりだったので、居飛車が用いてきそうな形、例えば銀対抗に特化してVSでは指してもらったりしました」

 先手中飛車は、振り飛車党にとってエース級の戦法である。居飛車党の上位棋士に話を聞いても、「先手中飛車を相手に序盤でよくするのはさすがに無理」と語る者がほとんどだ。杉本も「先手中飛車にだけは敬意を払ってもらえるんですよね」と苦笑する。

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 そこまで有力な作戦なら、なぜ大事な開幕戦で用いなかったのだろう。

「先手中飛車は確かに有力ですが、玉が薄い将棋になりやすい。開幕戦は玉を堅い将棋にしたかったので、穴熊にもミレニアムにもできる三間飛車にしました」

 開幕前は惨敗したらどうしよう、という不安があった。だから玉の堅さで安心感を得ようとしたわけだが、連敗で追い込まれたことで開き直りが生まれ、玉形がどうであろうと最有力である先手中飛車で立ち向かおうと腹を括った。

 杉本が「今シリーズで最も印象に残る将棋」と語る第3局、師匠の和服を纏った杉本は5手目に美しい手つきで飛車を中央に滑らせた。熱戦が始まる合図だった。

後で調べた時に、その手を指せたとしても負けていると

――予定通りに先手中飛車に構えました。序・中盤は想定通りになりましたか?

「いや~、藤井棋聖の対策が自分の本線ではなく4~5番手ぐらいで、微妙に外された感じはありました。ただねじり合いが続いていて、形勢は大きく離されてはいないのかなと。膠着状態が続き、どう打開しようかずっと悩ましかったです」

――藤井棋聖は玉を囲って中央を厚くする指し方を採ってきましたね。

【次ページ】 AIを使う比重を減らして中・終盤を強化しなくては

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