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「妻の支えなしには成し得なかったですが」vs藤井将棋の初タイトル戦、杉本和陽33歳が語る「亡き師匠は…何て言ってくださるんでしょうね」
text by

大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph by日本将棋連盟
posted2025/08/10 11:02
棋聖戦の3局で藤井聡太七冠と向き合って、杉本和陽六段は何を感じたか
「頭を使う時間を増やします。今の基本的な生活の流れとして、例えば午前中は10時から17時ぐらいまで持ち時間20分で切れたら1手30秒という条件で練習将棋を指して、帰宅してAIで振り返ります。ただ研究会の20分30秒って意外に頭を使っていなくて、AIを触っている時も同様です。そうすると第1局や第3局の難解な終盤戦を考えるための力がつかないのかなと思ったので、そこは改善したいです」
――例えば長編の詰将棋を解くとか?
「そういう昭和的なトレーニングも必要かもしれません」
藤井棋聖は…まったく慢心がないんです
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――タイトル戦の舞台で藤井棋聖と濃厚に接して、彼の強さはどこにあると感じましたか?
「私が言うのもおこがましいですけど、全く慢心がないところです。藤井棋聖は七冠で、私は順位戦C級2組にいます。客観的に見て、『自分が勝っちゃうだろうな』と藤井棋聖が思っても不思議ではない。でもそういう意識がまったく見えないのがすごいなと」
――棋譜で見るのと、実際に対戦するのではやはり違うものですか?
「全然違いましたね。棋譜で見るとすごい手を簡単に指しているように見えるんですけど、実際は全くそんなことはなかった。誰よりも読み尽くそうとしているから勝てるんだなって、当たり前のことを学ばせてもらいました。自分は疲れてくると感覚で指してしまうことがあるんですけど、藤井棋聖は全然そういうことがないんです」
――盤外のことも少し伺います。初めて着た和服はいかがでしたか? 開幕戦と第3局は師匠の故・米長邦雄永世棋聖の和服をご遺族から譲り受けて着られたそうですが。
「座る時に裾の辺りを引っ張ると整うと着付けを教わった方から言われていて、、第1局でそうしたらビリッと嫌な音がして破れてしまいました。第3局でもう1回着たんですけどまた破けたので、今回でいい成仏ができたんじゃないかと思っています。また着られるかどうかはわかりません」
――10年以上も眠っていたものでしたからね。
「師匠が名人を奪取した時の和服もいただいたんですけど、それは兄弟子の中村太地八段が名人戦に挑戦した時などに着るのが美しい形かなと勝手に思っています」
師匠の奥様がすごく喜んでくださったんです
――泉下の米長邦雄永世棋聖は、杉本さんの今回の戦いぶりをどう見ていましたかね。

