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涙の落選から1年…天才リベロ小川智大(29歳)が再び五輪を目指すと決めた日「1個ずつやっていこうと、やっと思えるようになった」
text by

田中夕子Yuko Tanaka
photograph byYuki Suenaga
posted2025/07/22 11:04
再びオリンピックの舞台を目指すことを決めたバレーボール男子日本代表のリベロ小川智大(29歳)
沈んだ感情が上向いたのは思わぬ出来事。遠征先のホテルで周りの選手から離れるようにロビーのソファーに一人で座る小川の前を、夜の街に繰り出すアメリカ代表の選手が横切った。鈍い音で響いた放屁を「ソーリー」と詫びる彼らに、思わず「どういう日だよ」と、自然と笑みがこぼれた。
一瞬で気持ちが切り替わることはない。でも、「今の自分にできることをやろう」と決意できた。
メンバーに漏れた小川だったが、そのままVNLファイナルラウンド、そしてパリ五輪本大会でもチームに同行。日本代表としてコートに立つことはできなかったが、チームの一員としてスタンドから全試合を見守った。
再び火がついた日本代表への意欲
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パリ五輪を終えて1カ月が過ぎた昨年9月、小川の話を聞く機会に恵まれた。話題は自然と2028年ロサンゼルス五輪へと向けられた。
休養や代表引退を示唆する選手もいるなか、小川の去就を問うと、いつも饒舌なリベロが「うーん」と唸りながら、言葉を選ぶように言った。
「まだ全然。わからないです。目指すなら真剣にやらないといけないってわかっているから、余計に軽はずみには言えない。どうするんですかね」
その後、開幕したSVリーグ。新天地ジェイテクトSTINGS愛知ではケガ人も相次ぎ、チームとしても個人としても、すべて思い通りのプレーができたわけではない。むしろディフェンスの範囲や連係にもどかしさを感じ、苛立ちを露わにする姿も見た。それでも結果的には個の力を結集させ、優勝こそ逃したものの、チャンピオンシップファイナル進出という結果へとチームを導いた。
「SVリーグ優勝」を目標に戦ってきた小川の心が、少しずつ日本代表に傾いたのはシーズン終盤に差し掛かってからだった。
「(ロラン・)ティリさんから代表招集の話をいただいた時も、最初はどうしようかな、と思っていたんです。でも休むと決めた選手もいる中だからこそ、僕は逆に今やるならロスまでしっかりやりたいと思った。そのために、まずは来年の(アジア選手権で)オリンピックの切符を取ることとか、VNLとか、1個ずつやっていこうと、やっと思えるようになりました」


