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「あれ、生理止まった?」女子バレー鍋谷友理枝が動揺した“がんの疑い”「日本代表を外されるのが怖かった…」手術を決断できた夫の言葉とは?
text by

田中夕子Yuko Tanaka
photograph byqueenseis
posted2025/07/10 11:05
昨シーズン限りで現役を引退した鍋谷友理枝。子宮の病気や18歳の時に患ったバセドウ病のことまで、赤裸々に明かしたのには理由があった
「ちゃんと伝えたい」
1時間半に及んだ取材も終わりに近づく頃、鍋谷は何度もそう言った。現役時代は多くを語ってこなかったが、引退した今、なぜすべてを話そうと思ったのか。そう尋ねると鍋谷はまっすぐ前を見て言った。
「バセドウ病という病気自体、今でも知らない人がいっぱいいますよね。私も最初は何もわからなかったし、どうやって向き合えばいいかもわからなかった。だからもし、同じような経験、病気をした人が私の経験を知って、“バセドウ病と付き合いながらでも、これだけ長くバレーができた人がいたんだ”と思ってもらえたらいいな、と思ったんです」
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自らの経験が、これからにつながるならば「ちゃんと伝えたい」。子宮頸部高度異形成が早期発見できたことも「自分はラッキーだった」と振り返り、「だからこそ」と言葉に力を込める。
「私の場合、生理不順で病院へ行ったタイミングでたまたま病気がわかったけれど、日常的に婦人科を受診していたらもっと早く気づけたかもしれない。アスリートとしてのコンディショニングはもちろんですけど、一人の女性としてこれから先の人生を考えた時、病気の有無で妊娠や出産に関わることもある。この記事を読んで自分も受診しようと思うきっかけになれたら嬉しいし、そのためにも今日は全部話そうと決めて(取材現場に)来ました」
投薬もストップ「これからは家族の時間を」
2025年3月、現役生活最後の試合を迎える直前、鍋谷は婦人科の定期健診に訪れていた。レーザー照射での手術から5年、昨年からはバセドウ病の投薬も止め、医師からは妊娠と出産に向けて身体の問題はないと言われている。
「これからもバレーボールに関わっていくことはもちろんですが、まずは自分を大事に。そして彼を大事に。今まですっごくサポートしてもらったので、これからは私も彼を支えられるように。家族の時間を大切に過ごしていきたいです」
4月6日、ラストゲームでは対戦相手であり、かつて共にプレーしたデンソーの仲間たちやスタッフからサプライズで花束が贈られ、顔をクシャクシャにして泣いた。小学生の頃から泣き虫で、バレーボール選手になってからもたくさんの悔しさを味わった鍋谷が最後に流したのは嬉し涙だった。
これからは健やかに、穏やかに、そして幸せに。時を刻んでいく。
〈全3回/第1回から続く〉



