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「これ以上言ったら退場ですよ」「わかってます」巨人・阿部慎之助監督の退場劇は“確信犯”だったのか? リプレー検証に“あえて抗議”した理由とは 

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鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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photograph bySNAKEI SHIMBUN

posted2025/07/07 17:00

「これ以上言ったら退場ですよ」「わかってます」巨人・阿部慎之助監督の退場劇は“確信犯”だったのか? リプレー検証に“あえて抗議”した理由とは<Number Web> photograph by SNAKEI SHIMBUN

7月2日の阪神戦8回のクロスプレーを巡るリプレー検証に抗議し、退場処分となった巨人・阿部慎之助監督

 阿部監督は就任1年目にリーグ制覇を成し遂げたが、クライマックスシリーズ敗退という屈辱も味わった。連覇と悲願の日本一奪回に向けてオフには大型補強も敢行して臨んだ今シーズン。しかし指揮官の思惑とは裏腹に、チームは開幕から波に乗れないままに前半戦ターンを迎えようとしていた。

 交流戦も6勝11敗(1分け)の11位。セ・リーグのチームは総崩れ状態で、首位をいく阪神も8勝10敗と負け越し。おかげで何とか交流戦終了時点で4.5ゲーム差はキープしていた。レギュラーシーズン再開後のDeNA戦では、投手陣の踏ん張りでいずれも完封試合で3連勝して3.5差。そうして乗り込んだ敵地・甲子園球場での阪神3連戦である。

 今季はこの3連戦前まで対阪神戦に4勝8敗と大きく負け越し、それがチーム停滞の最大の要因となっていた。阿部監督が語る「勝負の8月」を前に、首位戦線に残っていくためには、この3連戦は試金石だった。最低でも2勝1敗、あわよくば3連勝を狙って臨んだ戦いだったはずなのである。

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 しかし……。

 初戦は10安打を放ちながら決定打を奪えぬままに1対2で敗れた。そしてこの2戦目も土壇場の8回にリクエスト検証の結果、決定的な決勝点を許してしまった。監督としてできることは手を尽くしているはずだ。それでも、阪神戦のこの悪い流れを断ち切ることができない。

 ならば自分が退場になることを承知の上で――あえて言うなら退場になることを求めて――あの抗議を行なったとしか思えない。要は「リプレー検証に異議を唱えることは許されない」というルールを逆手にとって、あえてチームに波風を立てにいった行動だったと推察するのが妥当だろう。

 この退場劇には様々な声が飛んだ。

 一部にはリプレー検証で下した判断の根拠を審判が説明すべきだという声もある。ただ「ビデオ検証の結果、タッチしていなかったと判断したのでセーフ」であることは明白だ。監督も分かっているはずだし、それ以上に特に説明することが必要だろうか。

中日・井上監督の抗議は退場処分にならず

 その一方で、5月27日のヤクルト対中日戦では中日・川越誠司外野手の本塁打性の打球を巡るリプレー検証の結果、ファウルの判定が下された。しかしこれを不満とする中日・井上一樹監督が抗議を行なったが、この際は退場処分とはなっていない。しかも後にNPBから中日球団に本塁打たる映像を確認したことが伝えられるなど、制度を巡る不備が明らかになっている。そうしたことからリプレー検証そのものの根本的な不明確さを指摘し、改善策を求める声が起こっているのも確かである。

 NPBの現在のリプレー検証では、リクエストが出ると控え審判と当該判定を審判員を除いた合計3人が球場内でテレビ放送のビデオを使って検証を行う。その上で3人の多数決により最終的な判定を決める。あくまで第三者のテレビ映像を使い、現場の担当審判がビデオ検証をして判断をするシステムである。

MLBの「チャレンジ制度」とは

 しかし同じようにビデオ等による判定を導入しているメジャーリーグ(MLB)や韓国プロ野球(KBO)では、テレビの中継映像ではなく、独自に各球場に複数の判定用の専用カメラ(MLBでは7台から12台)を設置して、判定にはそのカメラで収集した映像を使う。さらに判定するスタッフも球場外に検証センターを設置して、当該審判員ではなく第三者によって行なわれるというシステムだ。

【次ページ】 MLBの「チャレンジ制度」とは

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