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「濱中をオリックスにください」「ナメてんのか!」阪神生え抜きスター・濱中治の電撃トレードはなぜ起きた? オリックスと阪神“寿司屋で極秘交渉”
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岡野誠Makoto Okano
photograph byJIJI PRESS
posted2025/07/08 11:03
2007年オフ、阪神の生え抜きスターだった濱中治はオリックスへトレード放出された
「統一契約書に、トレードの際は『報酬不変』と書かれているんですよ。上の人たちはよく言いますわ。『成績悪かったんやから、年俸を下げられませんか』って(笑)」
黒田は03年1月1日付で、編成部長に昇格。左の先発・下柳は9年ぶりの2ケタ勝利を挙げ、2番手捕手・野口は要所でチームを助け、星野監督の胴上げに大きく貢献した。日本ハムに移籍した坪井は打率.330と復活し、伊達も51試合に投げて9セーブをマーク。トレードは双方にプラスになった。
「濱中ください」「誰くれんねん」寿司屋の攻防
岡田彰布監督時代の07年オフにも、黒田は生え抜きスターの絡んだ大型トレードを敢行した。前年に初の3割と20本塁打をマークした濱中治、左のサイドスローの吉野誠を放出。オリックスから好守のセカンド・平野恵一、23歳の右投手・阿部健太を獲得した。
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「(同じ六大学出身の)中村勝広がオリックスの球団本部長になってましたからね。昔から、よく一緒に麻雀をする後輩だったんですわ。その繋がりがありましたから。交渉は、阪神の納会の日だった。『近くの寿司屋で待ってますから』って」
11月21日、黒田たちは納会で食事を終えると、指定された場所へ向かった。
「話し合いをする時、部下を1人必ず連れて行くんですよ。1対1では絶対しません。お金の話も出るからね。相手も2人おりましたわ。少し飲んでいたようで、酔っ払ったような感じでしたね」
寿司屋の座敷に入ると、挨拶もそこそこに、顔を赤らめた中村が「濱中くれませんか?」と切り出した。シラフの黒田が「いや、あげるけど誰くれんねん」と返すと、平野の名前が挙がった。黒田はもう一人、潜在能力を秘める右腕も欲しがった。
黒田:阿部はどうや?
中村:阿部はちょっと……。
黒田:それなら、トレードやめよう。舐めてんのか! バカ野郎!
憤怒とともに、思いきりテーブルを叩いた。激しい振動を直に感じた中村が我に返ると、個室に乾いた音が響き渡っていた。一瞬の空白が生まれた後、慌てて中村が切り出した。

