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「失神KOで記憶喪失」佐々木尽23歳の誤算…ウェルター級王者ノーマンは“強すぎた”のか?「じつはダウン後に“本音”」陣営に聞いた真相「実力差あった」
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渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Finito Yamaguchi
posted2025/06/20 17:05
ブライアン・ノーマンJr.の左フックで壮絶に散った佐々木尽。ウェルター級世界王者の実力を見せつけられる結果となった
ノーマンがボディへのパンチで餌をまき、佐々木がボディジャブを打ってパンチを引いた瞬間だった。王者が鋭く左フックを振り抜くと、これをモロにくらった挑戦者が背中からキャンバスに突き落とされる。佐々木はそのまま意識を失い、ストレッチャーに乗せられて退場した。KOタイムは5回46秒。派手な倒れ方と失神KOという幕切れは、ドラマティックという言葉がよく似合う佐々木らしくもあった……。
「世界戦が決まったことも覚えていない」
佐々木は試合後、そのまま病院に直行した。CT検査などの結果、異常はないということだが、付き添った中屋会長は「記憶がまったくない。世界戦が決まったことも覚えていない。KO負けしてここまで記憶がなくなる選手は初めて」と明かした。
佐々木は高校に入学したときからボクシング一筋の生活を送り、ことあるごとに「人生をかけている」「命をかけている」と繰り返したように、今回の世界タイトルマッチに己のすべてを注いでいた。一時的とはいえ記憶の大幅な喪失は、敗戦のショックの大きさを物語っているようにも感じられた。
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ご存じの通り、日本は今、軽量級に多くの世界チャンピオンが君臨している。アラム氏が「私はボクシングに60年携わっているが、日本がこんなに強かったことは今までにない」と驚く通りだ。そうした中、井上尚弥を擁するプロモーターの大橋秀行会長が次なる目標に定めたのが中量級だった。軽量級に続き世界的に層の厚い中量級で日本人のスターを作りたい。パイオニアの一人として指名されたのが実力と個性的なキャラクターを兼ね備えた佐々木だった。
結果的にウェルター級の壁はやはり厚かった。それでもウェルター級で世界を目指すというチャレンジにはロマンがあり、大いに見ごたえがあった。今後の佐々木が、そして後に続く日本人ボクサーがウェルター級の頂点に立つ日はいつ訪れるのだろうか。難しいからこそやりがいもある。サムライボクサーたちの価値あるチャレンジを今後も見守りたい。



