ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
「失神KOで記憶喪失」佐々木尽23歳の誤算…ウェルター級王者ノーマンは“強すぎた”のか?「じつはダウン後に“本音”」陣営に聞いた真相「実力差あった」
posted2025/06/20 17:05

ブライアン・ノーマンJr.の左フックで壮絶に散った佐々木尽。ウェルター級世界王者の実力を見せつけられる結果となった
text by

渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Finito Yamaguchi
WBOウェルター級タイトルマッチが6月19日、東京・大田区総合体育館で行われ、挑戦者で同級2位の佐々木尽(八王子中屋)が王者ブライアン・ノーマンJr.(米)に5回46秒KO負け、王座獲得はならなかった。日本人初のウェルター級世界王者を目指して「歴史を作る」と意気込んだ佐々木の誤算とは何だったのか。日本国内では36年ぶりとなったウェルター級の挑戦を振り返る。
「単純に実力差があった」佐々木陣営の“誤算”
相手の強さを見誤ったところがあったのかもしれない──。八王子中屋ジムの中屋一生会長は「単純に実力差があった」と完敗を認めながらそう口にした。
これまで日本には100人以上の世界チャンピオンが誕生しながらウェルター級日本人王者はゼロ。同級世界戦の国内開催が35年ぶりということもあり、王座獲得が難しいミッションであることはだれもが承知していた。それでも一発で試合を決めるずば抜けたパンチ力を持ち、突き抜けた性格の持ち主でもある23歳の佐々木には「何か大仕事をやってくれるのではないか」という期待があった。
ADVERTISEMENT
ノーマンが有名なチャンピオンではなかったという事実も「もしかしたら」と思わせる材料だった。24歳のノーマンは世界チャンピオンになってから日が浅いこともあり、アメリカでも注目度は決して高くない。早くから世界王者候補と騒がれ、4月にWBAとIBF王座を統一したジャロン・エニス(米)に比べるとその差は明らかである。
さらにチャンピオンが前回の試合から3カ月弱という短い準備期間で日本での試合を受けたことから、「ノーマンは佐々木を甘く見ている」という見方もできた。こうした背景も「歴史を作る」瞬間を見られるのではないか、という期待を後押ししていたのだ。
規律正しく真摯な王者ノーマン「これは厳しい」
ところが王者が来日すると勝利への希望は徐々にしぼんでいった。来日が試合の2週間前という周到なタイミングであり、日本での様子を見た関係者からは、ノーマンの規律正しい行動と、周囲にリスペクトを欠かさない真摯な態度ばかりが伝わってきた。公開練習ではスピーディーで躍動感のある動きを披露。その動画がネット上に流れると、SNSでは「これは厳しい」という声が広がった。