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「失神KOで記憶喪失」佐々木尽23歳の誤算…ウェルター級王者ノーマンは“強すぎた”のか?「じつはダウン後に“本音”」陣営に聞いた真相「実力差あった」 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byHiroaki Finito Yamaguchi

posted2025/06/20 17:05

「失神KOで記憶喪失」佐々木尽23歳の誤算…ウェルター級王者ノーマンは“強すぎた”のか?「じつはダウン後に“本音”」陣営に聞いた真相「実力差あった」<Number Web> photograph by Hiroaki Finito Yamaguchi

ブライアン・ノーマンJr.の左フックで壮絶に散った佐々木尽。ウェルター級世界王者の実力を見せつけられる結果となった

 試合前日にはアメリカの大手プロモーション「トップランク」の総帥、ボブ・アラム氏が計量会場に姿を見せた。93歳の大御所がわざわざ日本まで来ること自体がノーマンの器の大きさを示していた。

「ノーマンはすでにチャンピオンだが、これからスーパースターになるという大きな期待があるので日本まで試合を観に来た。ノーマンは非常に優れたボクサーだ」

 周囲に「厳しい」というムードが広がる中、佐々木本人は動じることなく、明るく強気ないつもの姿勢を貫いた。記者会見では「客観的に見て8-2で自分が勝つ」、計量後には「相手の目を見て動物的に自分のほうが強いと思った」と意気揚々と答えた。勝利をつかむための作戦を立て、トレーニングで体に落とし込み、決戦の舞台に挑むメンタルも整えた。こうして運命の日を迎えたのである。

「パンチがすごくある…」ダウン後に漏れた本音

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 佐々木はいつものクラウチングスタイルに比べてややアップライト気味に構えた。必殺の左フックは当たりにくいと考え、ジャブでノーマンを崩そうとしたのだ。作戦通り佐々木は一発目にジャブを打ち込み、右のロングフックをフルスイングした。しかし開始40秒、右に左フックを合わされて早くもキャンバスに転がる。さらに30秒後、今度は左フックの打ち終わりに左フックを合わされて2度目のダウンを喫した。

 ノーマンは試合後、「佐々木は打ち終わりにディフェンスが甘くなると分析していた。実際に試合が始まったらそうだと分かった」と1ラウンドのダウンを振り返った。中屋会長によると、佐々木はコーナーに戻り、「パンチがすごくある……」と中屋廣隆チーフトレーナーに伝えたという。

 2回以降、佐々木はジャブ、得意の左フックを上下に打ち分けてチャンピオンに迫った。渾身の力をこめたフルスイングには「当たれば」という希望がこもっていた。対するノーマンは冷静に佐々木のアタックを防ぎながら、多彩なパンチを打ち込み、特に右フックを容赦なく叩き込んだ。佐々木がダメージを蓄積していく。逆転の一発への期待が少しずつしぼんで迎えた5回、クライマックスが訪れた。

【次ページ】 「世界戦が決まったことも覚えていない」

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