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マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「練習せえへんもんなぁ…」長嶋茂雄“2世”長嶋一茂に《ドラ1指名》ヤクルト元スカウト部長のホンネ評「唯一、オヤジさんに似とったのは…」
text by

安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byAFLO
posted2025/06/16 11:01
ヤクルトに入団した愛息・一茂を指導する長嶋茂雄。そのポテンシャルの高さは、辛口で有名な辣腕スカウト部長も評価していたという
めったに感情をにじませなかった片岡さんが、珍しく、イライラしているように見えた。じれったかったのだろう。
「一茂が入ってきた頃のヤクルトは、よう練習するもんばっかりや、若いもんが。広沢(克己・一塁手)、池山(隆寛・遊撃手)はもうレギュラーなっとったけど、それでも、ここまでやるか……ってほど練習しとったし、なんぼでも練習できるほど、体も強かった。飯田(哲也・外野手)や土橋(勝征・内野手)はまだ下(ファーム)やったかな。こいつらも、野球は不器用でも、いくら練習しても壊れへんぐらい体が強かった。あのあたりの半分も練習しとったら、一茂もなぁ」
「メジャーでやれたのは…一茂だけ」?
――サードのレギュラーぐらい、あっさりですか。
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「いやいや、あんた、そんなもんやないで。あの時代のヤクルトで、メジャーでやれる武器持っとったのは、一茂だけや。ま、あくまでも、可能性の話やけど」
可能性の範囲としても、メジャーとは驚いた。
「あの長打力、あの体格……それと、あの独特のムードな。大物感や。大物感があったから、三振しても、エラーしても、人の倍ぐらい叩かれる。あれはしんどかったやろ。根は気のやさしい、どっちかいうと、ビビりみたいなところのある子やったからなぁ」
頭が小さく、骨格が大きく、腰の位置の高い分厚い体躯。
縦ジマのヤクルトのユニフォーム(当時)があんなによく似合う選手もいなかった。それだけに、ヤクルトファンの私には、後ろの「背番号3」がちょっと重たく、ちょっと悲しく見えていた。
オヤジさんがもし、あそこまでの人じゃなかったら……そんな妄想が浮かんだりもしたが、いつの間にか、「宿命」というふた文字の力にかき消されてしまっていた。

