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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「非情ですけど、右肩を狙った」中谷潤人は“ダーティ”すぎたのか?「中谷は右肩ばっかり見てた」敗者・西田凌佑が明かしたウラ側「棄権を決断した瞬間」
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曹宇鉉Uhyon Cho
photograph byNaoki Fukuda
posted2025/06/15 11:04
4ラウンド、中谷潤人の左と西田凌佑の右が交錯した瞬間。この時点で西田は右肩を痛めていた
インターバルは1分しかない。このとき初めて脱臼を知った武市トレーナーは難しい判断を迫られる。
「完全に外れている感じじゃなかったじゃないですか。だから“動くか?”と聞いたんですけど、もう“左だけでやります”って感じだったんで、それやったらやめよう、と」
不運が重なったのは事実だった。それでも西田は敗北を受け入れるほかなかった。
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「目も見えなくて、肩もあれやったんで。武市さんが“止めるか?”って。そこで“やる”って言えなかったですね。左ストレート合わせるのを狙ってたんですけど、全然当たらなかったんで。ちょっと心を……。いかないといけなかったんですけど、負けましたね」
最終的に棄権を告げたのは枝川会長だったという。
「どうするどうするって、1分しかないから。もう目が完全に塞がってたから、これでやったかて危ない。打たれてバーンってなるより、はよ止めたほうがいい。もう勝たれへんやん、あんななったら。言わへんかったら、ゴンゴン鳴ってレフェリーがやらせるような状態やったから」
“あの6分間”は西田が勝っていた
そうして決着を意味するゴングが打ち鳴らされた。有明コロシアムがどよめきと歓声に包まれる。クリーンなKOではない。それでも統一王者となった中谷は喜びを隠そうとしなかった。
武市トレーナーは悔しさを押し殺しながら言葉を絞り出した。
「いけるんじゃないかなと正直思ったんで……。思っただけに、やらせたいという気持ちはあったんですけど、片手で勝てる相手じゃない。いってこいとは言えなかった。まずは健康な状態で終わらせないといけないんで」
西田自身が繰り返し「挑戦」と表現したように、中谷との戦力差は小さくなかった。勝つことも、敗北寸前まで追い詰めることも叶わなかった。だが、勝利の可能性を最大化するために死力を尽くした。判官贔屓ではなく、勝ち筋はあったのだ。左ボディが刺さり始めた3ラウンドに。あるいはカウンターの左ストレートを打ち抜いた4ラウンドに。
6ラウンド、計18分のうちの6分間。西田凌佑の時間が、たしかにそこにあった。
<全2回/前編から続く>


