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長嶋茂雄“父の顔”「一茂の友達か? みんなで中華行こう」長嶋一茂の友人・武田一浩が語る、“一茂のお父さん”「大学生に高級フカヒレをおごった夜」
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遠藤修哉Naoya Endo
photograph byKYODO
posted2025/06/11 17:06
1993年、巨人にトレード移籍した長嶋一茂。宮崎キャンプで一茂を見守る長嶋茂雄監督
「たまたま一茂のお父さんが家にいて、髪を切っていたんだよ。床屋さんを呼んでいてね。そろそろ焼き鳥屋に行くからお父さんに挨拶したら、あの口調で『友達か? どこ行くんだ?』って返ってきた。『焼き鳥屋に行くんだよ』って一茂が答えると、お父さんは『一茂、じゃあ、みんなで中華行こうか』って言ってきて……」
温和ながらも有無を言わせぬ行動力の父が、一茂とその友人を誘った先は、なじみの高級中華店『中国飯店』だった。運転手つきの車で店に連れられた武田は、個室の丸テーブルに座り、野球人・長嶋茂雄に初めて相対した。
「大学生にとってはそんな高級な店は初めてで、何食べていいかわからない。フカヒレを『なんだこれ? 味しないな?』なんて思いながら食べてました。だから料理はそっちのけで、長嶋さんと野球のことばっかり話してたね」
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そのときの話題の中心は、日本のプロ野球ではなく、メジャーリーグだったという。
「長嶋さんはメジャーリーグに詳しくて、積極的にいろいろ質問しました。今みたいにテレビでメジャー中継なんてしてなかったから、大学生のオレにとっては刺激的だった。ホセ・カンセコやマーク・マグワイアがいて強かったオークランド・アスレチックスの話だとか、とくに盛り上がったのは、メジャーの話題を独占していたドワイト・グッデンについて。ニューヨーク・メッツのグッデンは、1984年に19歳でメジャーデビューしていてオレらと同世代だったから、関心があったんだよね。長嶋さんはグッデンを見たことがあって、『カーブがいいんだよ』と絶賛でした」
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その後の一茂との食事でも、長嶋は間接的に現れた。
「例の焼き鳥屋で食べ終わると、一茂はそのまま出ていっちゃう。オレも含めてだけど、誰もお金を払わない。まぁツケってことなんだろうけど、結果的には、お父さんにご馳走になっていたんだよ。日米大学野球選手権大会の選考合宿のときもそう。全日本のメンバーみんなで焼き肉屋に行ったんですけど、さあそろそろ会計するか……なんて話をしていると、一茂が『オレ、もう全部払ったよ』って言い出す。おそらくお父さんのカードなのかな。割り勘のつもりでいたから、みんな驚いていましたね」
お父さんではない長嶋茂雄に会ったのは、武田がプロ入りしてしばらく経ってからだ。


