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「僕はサッカー人生の敗北者」元・市船のスーパーエースにして韓国Kリーグで最も愛される日本人、石田雅俊が輝きを取り戻すまで
posted2023/06/07 11:00
text by
姜亨起Kang Hyeong Gi
photograph by
FA photos
4月1日、ホームの大田ワールドカップ競技場で行われたKリーグ1(1部)第5節のFCソウル戦。大田が前半に2点先取するも、後半早々ソウルに同点に追いつかれた展開で、石田雅俊は後半13分に投入された。
「自分に流れが来ているな、と感じていました。同点になってお互い攻守が激しく入れ替わる展開だったので、上手くスペースでボールを引き出して、どんどん仕掛けようと思っていました」
開幕2日前に扁桃炎にかかり、38度を超える高熱で2週間離脱していた石田にとって、この試合が2023年シーズン初出場だった。当然、コンディションも万全ではない。投入直前の心境は「そんな自分に期待し過ぎることなく、点は取りたかったが『取れたらいいな』程度の感覚」だったという。
それでも、終了間際の後半43分にその瞬間は訪れた。左サイドでチームメイトが相手DFを突破し、一気に敵陣深くまで攻め込むと、石田は猛然とゴール前へ走り込んだ。人数的には2対4と数的不利だったが、気にすることもなかった。
「あの場面で言うと、GKとDFの間に抜けるボールに一人は反応できるようにしないといけない。僕が一番先頭にいたので、その役割を担った感じです。基本的に、サッカーで得点が入るポイントというのは自分のなかで押さえているんです」
イメージ通り、GKとDFの間に送られた速く低いボール。右足で合わせたシュートはクロスバーに当たってゴールインした。勢い余ってネットに転がり込んだ石田は、少し遅れて自身のゴールに気がついた。
「実はあの時、スピードに乗っていたからか風の影響で目が乾いて、一瞬ボールがよく見えなくなったんですよ。シュートした瞬間もふかした感覚があって、『これやばいな、外したかも』って思いました。でも、運良く入ったので本当良かったです」
プロ10年目の1部リーグ初得点
劇的な勝ち越し弾にチームメイトはもちろん、ベンチの監督やスタッフも全員が無我夢中で喜びあった。何より、会場を訪れた約1万6000人の大田ファン・サポーターの誰もが歓喜に沸いていた。石田自身も大きく咆哮し、力強く腕を振り上げ、感情を爆発させていた。
結果は3-2で大田が勝利。殊勲の石田は試合のマン・オブ・ザ・マッチ、そして週間ベストイレブンに選出された。
「ゴールであんなに喜んだことはあまりないですね。もしかしたらサッカー人生で一番……プロになってから一番、嬉しかったゴールかもしれないです」
そう言いながら照れくさそうに微笑んだ石田。これが、彼がプロ10年目にして決めた“1部リーグ初得点”の全容だ。