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「貧乏すぎて公園の土管で寝ていた」…8年のブランク→75秒KO負けデビューから“世紀の番狂わせ”まで成り上がった木村翔の波乱万丈ボクサー人生
text by

杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byTadashi Hosoda
posted2025/05/12 11:02
2025年4月、“世紀の番狂わせ男”木村翔は万感の思いで引退興行を行なった
思わぬ敗北で得た気づきを糧に…
「あんなに簡単に倒れてしまうんだな、と。リングに倒れるのは恥だと思っていたので、屈辱的でしたよ。男が涙を見せるのは恥ずかしいけど、試合の後、めちゃくちゃ泣きました。もうボクシングを辞めたいと思ったくらいです。人生はなかなかうまくいきませんよ。
でも、いま振り返れば、初戦でKO負けして、いろいろ気づけたのは良かったかな。自分は打たれ弱いし、ディフェンスもよくない。だから、どんどん前にいくスタイルを貫きつつも、ガードをしっかり上げて戦うようになりました。デビュー戦以来、1度もダウンをしていませんから」
失敗から学べる人間は強い。想定外のつまずきは大きな糧となった。2戦目以降は引き分けをはさみつつも、無敗で勝ち星を重ねていく。ただ、試合で得られるファイトマネーは微々たるもの。収入源をバイトに頼る生活は厳しかった。
公園の土管で寝ていた
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彼女のアパートに居候していた時期には、ケンカをして寝床を失うこともあった。金もなければ、行くあてもない。途方に暮れて、新宿の公園で何度か夜を明かしたという。
「ベンチでも、土管のなかでも寝ました。ちょうど良いサイズの土管があってね。いまどき、こんな経験をしている元世界チャンピオンはいないでしょ」
足かけ3年で日本ランク入りを果たしたが、生活は困窮を極めていた。節目のプロ15戦目を終えて、12勝1敗2分け。待てど暮らせど、タイトルマッチのチャンスは巡ってくる気配はない。そろそろ、我慢の限界を迎えていた。
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