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「コイツ、全力を出してないな」井上尚弥を相手にどんな対策を取るのか…元世界王者・飯田覚士が注目したカルデナスの“絶妙なディフェンス”
text by

二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byHiroaki Finito Yamaguchi
posted2025/05/09 18:23
ラスベガスで行なわれた井上尚vs.ラモン・カルデナスの一戦のポイントを元世界王者・飯田覚士氏が徹底解説した
「攻撃のパターンで言えば、得意とする左フックと右ストレートをどのように当てていくか。尚弥選手の左ジャブの打ち終わりに右ストレートを、ワンツーを打ってくるのであれば相打ちで強振するっていう狙いは伝わってきました。カルデナス選手はKO率が低いと言っても2階級上のスーパーフェザー級でもバリバリやっていたので、その数字にごまかされてはいけないと思いましたね」
逆に王者目線からはどうだったか。強いリードジャブでリズムをつくり、スッと左ボディーストレートも当てていく。そして1ラウンド終盤にはワンツーをヒットさせた。
「最初、距離がメッチャ遠いなと思いました。1年前、(ルイス・)ネリ選手との試合で最初のラウンドでダウンを喫してからはより慎重になっていますし、カルデナス選手のパンチ力も警戒していたように映りました。試合前のコメントも『中盤にKOするのが一番いい終わり方』と語っていましたから、序盤は自分の良い動きを見せつつ、相手をしっかり分析するんだろうな、と。フットワークは軽いし、グローブをぐるぐるって回したりして気分は乗っているなとも思いましたね。最後にあのワンツーを打ち込んで、ある程度距離もつかめたという感触もあったはずです」
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カルデナスの「尚弥対策」もお構いなしといった順調な滑り出しであったことは間違いない。次に把握しておきたいのは、カルデナスのパンチの軌道、そして威力。井上のアクションを見て、飯田はそう感じた。
「尚弥選手が攻撃して主導権を握りつつも、敢えて足を止めてガードの上から打たせたんですよね。でもここで“おっ”と思えたのが、カルデナス選手が本気で打ち込んでいないんですよ。おそらく尚弥選手が自分のパンチ力を確かめているなって感じたのではないでしょうか。微妙に力を落として打っていたように僕の目には見えました。ただ百戦錬磨のチャンピオンですから、“コイツ、全力出してないな”というのはきっと分かっていたはずです」
井上の鼻から血が流れ…
手のひらで転がしてみようとするが、挑戦者はそう易々と乗ってこない。そんな心理戦が繰り広げられていくなかで大きなシーンが訪れる。
2ラウンド残り50秒、カルデナスの右ストレートが顔面に入り、井上の鼻から血が流れる。ならばと王者も少しギアを上げてワンツーを放っていく。なおも攻勢を掛けていくべく、ロープに詰めて左フック、右フック、左フックとパンチを振り、後退するチャレンジャーを追い掛けようとしたその刹那、Tモバイルアリーナにどよめきが走った――。

