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「死にそうじゃねぇかよ…」伊沢拓司が敗れた“本当の天才”…なぜクイズ界から消えた? “衝撃の引退宣言”全真相「青木は、強すぎたんです」
text by

別府響Hibiki Beppu
photograph byL)本人提供、R)Keiji Ishikawa
posted2025/05/14 11:03
「引退宣言」でクイズ界を揺るがした天才・青木寛泰は今――
青木のいない世界で、伊沢は「クイズ王」を続けた
ただ、現実はそうはならなかった。伊沢は、その現実を「ねじれ」という言葉で表現した。
「僕は青木に負けて、逃げたからこそクイズを諦められなくなってしまった。その結果、ねじれが起こって、今も僕がクイズ王としてメディアに出ている」
伊沢は、「青木は強すぎたんです」と続ける。
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「スピードを出せすぎちゃった。(※1998年秋の天皇賞で大逃げをし、故障で予後不良となった)サイレンススズカみたいなもので。どこまでもやり込む圧倒的な努力のスピードも、最初は結果を出すために望んでやっていたことだったはずなんです。
でも、結果が出たことで、それが日常になっちゃった。常に速く走っていなきゃいけなくなったし、しかも青木にはそれができてしまった。だからこそ壊れて、クイズを続けられなくなった。何ていうのかな……本当だったら青木が居たはずの未来を今、僕がもらっちゃっている気がして」
伊沢は、そんな風に振り返る。
テレビで、広告で、あらゆるメディアを介して、いまや伊沢の顔を見ない日はない。
それは、天才に勝てなかった男が、そのルサンチマンをバネにしてクイズを続けた結果、それが職業になってしまったという不思議な現実なのかもしれない。
消えた天才・青木寛泰
現在、青木は医学博士としてアメリカの研究室に所属している。伊沢の現状については、こんな風に笑っていた。
「クイズを仕事に――なんて、当時は全く考えられませんでしたから。そういう選択肢があれば、僕の考え方も少しは違ったかもしれませんけどね。でも、『クイズなんてどこまでいっても趣味でやるものだよ』と一番、言っていたのは伊沢さんだったんですけどね」
大学入学後に描いた未来図のとおり、いまの専門は免疫学の研究だ。
コロナ・パンデミック後に発表した論文が国際学術誌に掲載されるなど、その卓越した頭脳を生かし、順調に研究者としてのキャリアを歩む。時代の波に翻弄されながらも、日々、充実した毎日を送っているそうだ。
クイズは、やっていない。
〈インタビュー第1回、第2回、第3回も公開中です〉

