Number ExBACK NUMBER
「アイツには勝てない…」クイズ王・伊沢拓司の自信をへし折った開成“もう一人の天才”…異次元の記憶力で「史上最強のクイズプレーヤー」になるまで
posted2025/05/14 11:01

王者として君臨していた伊沢拓司の自信は、青木寛泰の覚醒により揺らいでいく――
text by

別府響Hibiki Beppu
photograph by
L)本人提供、R)Keiji Ishikawa
◆◆◆
2010年の学生クイズ界には、「伊沢旋風」が吹き荒れていた。
この年、開成高校の1年生になった伊沢拓司の競技クイズの実力は、中高の学生プレイヤーの中では完全に頭一つ抜けたものになっていた。出る大会、出る大会で決勝の舞台には伊沢の姿があった。
ADVERTISEMENT
そして、この年最も話題を呼んだのが、8月の『高校生クイズ』(日テレ系)で伊沢擁する開成高校が初優勝を果たしたことだ。
もちろんテレビのイベントであり、厳格に競技クイズの実力を問うものではない。
とはいえ、その影響力は段違いだった。1年生ながらチームの核として活躍した伊沢の姿を見て、周囲は名実ともに「最強プレイヤー」「クイズの天才」という認識を確かなものにしていた。
傍から見れば、順風満帆である。
当時の伊沢の目標は「クイズプレイヤーのスゴさを周囲に認めさせること」であり、その目標は『高校生クイズ』優勝を以て、ほとんど達成されていた。加えて、自身の実力にも揺るがない自信があった。
「当時、僕はより強いプレイヤーを求めて、社会人のサークルに出稽古に行っていたんですが、段々とそっちがメインのフィールドになりつつあった。それは、学生の枠では負けないという自信があったのも大きかったんです」
ところが、である。綻びは、予想外に近いところから起き始めた。
「連覇目前」絶頂期の伊沢を破った青木
8月下旬に栄光の『高校生クイズ』の収録を終えた翌日、伊沢は「高校生オープン」というクイズ大会に出場していた。高校生以下の学生にとっては最高峰の大会で、野球で言えば甲子園のような立ち位置だろうか。
しかも伊沢は前年、中学生にもかかわらず、その“甲子園”を制していた。
直前に『高校生クイズ』も制した当時の充実ぶりを考えれば、連覇の確率は限りなく高いように思えた。
そして下馬評通り、伊沢は決勝に進出した。連覇は、すぐそこまで見えていた。だが、そんな絶頂期にあったはずの伊沢は、そこで敗れた。
勝ったのは、同じ開成の1年後輩――青木寛泰だった。それは、前年の若獅子杯で伊沢が一瞬感じた恐怖が、現実になった瞬間だった。