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「スマホやYouTubeで選べるから…」夏の甲子園優勝監督は今ドキ球児に“叱る意味を感じない”「仙台育英は練習に自由度がある」深い理由とは 

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村中直人/大利実

村中直人/大利実Naoto Muranaka/Minoru Ohtoshi

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photograph byHideki Sugiyama

posted2025/05/10 17:02

「スマホやYouTubeで選べるから…」夏の甲子園優勝監督は今ドキ球児に“叱る意味を感じない”「仙台育英は練習に自由度がある」深い理由とは<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

夏の甲子園で初となる深紅の大優勝旗「白河の関越え」を果たした仙台育英。“今ドキの高校球児”に須江航監督はどう働きかけているのか

 仙台育英高の生徒に関しては、さきほどの私の仮説が外れていて、むしろ「自己決定」の感覚が育まれているからシャッターが閉じるのが早い。そう考えると「自由度の少ない環境」と、須江先生がお話された「選ぶことを認められてきた環境」の二極化が進んでいるのはたしかなように思います。その中間層が少ない。私は教育改革に携わる方と接する機会が増えていますが、公教育における格差の広がりを感じています。子どもの自己決定を尊重してきた家庭からすると、それを認めてくれない学校に入学させるのは迷いがあるもの。自己決定を尊重し、主体性を育んでくれる学校を選ぶのは当然の考えです。

自由度がある練習…一方で定期的な面談も

須江 仙台育英の場合は、練習にかなりの自由度があります。全員が同じようにやるメニューに加えて、個々の長所や短所と向き合うメニューを彼ら自身が選べる環境にしています。ただ、入学してすぐに自分に適したメニューを組み立てるのは難しいので、指導者と定期的に面談をして、「どういう方向に進めば、自分の良さが生きるか」を考える時間をしっかりと設けるようにしています。

村中 自分で物事を決めていこうとすると、必然的に「やりたい」「欲しい」を基準にしますよね。そういった感情の基盤となっている脳の部位がドーパミンを放出する「報酬系回路」です。ドーパミンは期待や欲求という形で人に快感情をもたらし、行動を引き起こす働きをしていると考えられています。私はわかりやすく、この状態を「冒険モード」と呼んでいて、「自分で決めた」「自分でしている」という感覚を持ったうえで、ワクワクしながら試行錯誤している状態です。〈第1回からつづく〉

須江航 Wataru Sue


 1983年4月9日生まれ、埼玉県鳩山町出身。小中学校では主将、遊撃手。仙台育英では2年秋からグラウンドマネージャーを務めた。3年時には春夏連続で記録員として甲子園に出場しセンバツは準優勝。八戸大では1、2年時はマネージャー、3、4年時は学生コーチを経験。卒業後、2006年に仙台育英秀光中等教育学校の野球部監督に就任。公式戦未勝利のチームから5年後の2010年に東北大会優勝を果たし全国大会に初出場した。2014年には全国中学校体育大会で優勝、日本一に。中学野球の指導者として実績を残し、2018年より現職。19年夏、21年春にベスト8。就任から5年後の22年夏。108年の高校野球の歴史で東北勢初の優勝を飾った。

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