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「アホ!バカタレッ!」巨人にドラフト指名回避された星野仙一だが…中日で監督批判しても炎上しなかったワケ「名古屋マスコミが星野さんを」
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江本孟紀Takenori Emoto
photograph byJIJI PRESS
posted2025/02/23 17:01
2013年日本シリーズ、原辰徳監督と写真に納まる楽天時代の星野仙一監督。巨人にドラフト指名されなかった真相とは
僕がプロローグでもお話しした「裏人脈」が、情報の発生源だったと見ている。
そうして時が経って68年秋のドラフトの指名直前、巨人のスカウト陣は星野さんとその年の夏、神奈川県の代表として甲子園に出場した武相高校の島野修のどちらを指名するかで意見が割れていた。
星野さんを指名したいというスカウトは、これまでの巨人の歴史からして早稲田の広岡達朗さん、慶應の藤田元司さん、立教の長嶋茂雄さんら六大学で活躍した選手を獲るべきだろう。だから星野さんを推すんだという主張だった。
「星と島を間違えたんじゃないのか」
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だが、島野さんを推薦するスカウトたちは、星野さんの右腕を問題視していた。
「星野は大学2年のとき、ひじか肩を故障している。プロに入ったら再発するリスクがある。その点、島野はこれといった故障がない」
話は平行線をたどった。星野で行くべきか――島野がいいのか――。
さんざん熟考した結果、巨人は島野を1位指名した。
「星と島を間違えたんじゃないのか」
ドラフト会議で星野さんが発したこの言葉からして、割り切れない思いだったことは容易に想像がつく。
そして中日に入団すると「打倒巨人」を掲げ、巨人を倒すことだけに心血を注ぎ、中日のエースとして活躍していった。
「アホ」を100回言ってもクビにならなかった
マウンドにピッチングコーチが向かうと、少し時間をおいてからベンチから監督が出てピッチャー交代を告げる。その後、ピッチャーは静かにマウンドから降りていく……。
ここまではピッチャー交代でよくあるシーンだ。だが、そのあと違ったのが星野さんだった。
マウンドから降りてベンチに戻るなり、右側にコップに入った飲み物を渡す選手、左側にタオルを渡す選手がいて、星野さんが間髪入れずにそれを受け取ると、ベンチ奥に消えていく。
ここからは当時の中日に在籍していた選手から、後になって聞いた話だが、裏の通路でガシャンとコップの割れる音がしたかと思いきや、何やら怒鳴り散らす声が――。

