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引退まで「1250本のラケットを一本も折らなかった」ラファエル・ナダル38歳の四大大会22勝より大切なこととは…「小さな村の良き人間として」
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2024/11/28 11:03
デビスカップ、スペイン対オランダ戦で最後の雄姿を見せたナダル。引退の舞台に団体戦を選んだのには彼らしい理由があった
22回のグランドスラム優勝、世界ランク1位の通算在位209週、ツアー優勝92回。「偉業」という言葉すら軽く聞こえる足跡だが、どれも史上最高の記録ではない。そのことは、ロジャー・フェデラー、ノバク・ジョコビッチとともに「史上最高の選手が3人同時に存在する」と言われた時代を生きた証ともいえる。
小さな村出身の、良き人間として記憶されたい
1万人のファンに見守られながらのスピーチで、最後にインタビュアーから「あなた自身は人々からどんなふうに記憶されたいですか」と問われると、こう答えた。
「タイトルの数や記録よりも、良き人間として覚えておいてほしいかな。マヨルカの小さな村の少年は、叔父がテニスコーチという幸運に恵まれ、どんなときでも力になってくれるすばらしい家族がいて、夢を持って一生懸命がんばってきた。そんな一人の少年が、夢見ていたよりもはるかに遠いところまでたどり着き、今この場所にいる。そう記憶してくれればうれしい」
最後まで故郷マヨルカを離れなかった
優しく見つめるナダル陣営の顔ぶれは、驚くほど変わらない。コーチはナダルが3歳のときから指導してきた叔父のトニーからカルロス・モヤに引き継がれて7年になるが、そのモヤだってナダルを10歳の頃から知る同郷の兄貴分だ。ナダルにとっての最初のデビスカップ優勝をともに勝ち取った仲間でもある。
5年前に結婚した妻のフランシスカも、19歳のときからのガールフレンドでやはりマヨルカの女性。もともとは妹マリア イザベルの親友だった。二人はいつも隣り合って座り、今はフランシスカの腕に2歳の息子ラファエルが抱かれている。その横に母アナ マリアがいて、父セバスチャンがいる。
故郷を愛し、家族や仲間を愛したナダルは最後までマヨルカを出なかった。ジュニアの頃には自国の協会から強化選手としてバルセロナへの誘いもあったが、両親はテニスのエリート教育以上に、親元での人としての教育を重んじたのだという。