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「夏こそ160キロを出したい」投手歴わずか2年…プロ注右腕の“放言”に監督激怒のワケは? ソフトバンクからドラフト1位指名・村上泰斗に訪れた転機
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph byJIJI PRESS
posted2024/11/10 17:00
ソフトバンクから「外れ外れ1位」で指名を受けた神戸弘陵高の村上泰斗。転機となったのは、昨秋あるビッグマウスを監督に窘められたことだという
岡本監督は言う。
「いやー、あの記事は、自分でもちょっと腹が立ちましたね(苦笑)。記事を読んだ後、村上を呼んで、かなり厳しく言いました。試合はスピードガンコンテストじゃないと。スピードよりも、もっとやるべきことがあるんじゃないかって。そんな話はしました」
村上は当時の自分をこう振り返る。
「自分が勝ちに導かないといけない立場なのに、あの頃は球速を出すことばかり考えていました。本当のエースはチームを勝たせるピッチャー。それなのに自分のことばかり考えていました。そこでやっと色んなことに気づけたと思います」
昨秋の時点の村上は、力で押せても走者を背負うと力んで自滅する場面も散見された。
「力を入れても棒球になって打たれてしまうので、質の部分を求めて行けと(チームで指導する同校OBで西武、中日でプレーした)前田(勝宏)さんからも教わってきました。ボールの回転数、回転軸もこだわって、スピードより質の部分を意識しないと、と思うようになりました」
強豪との練習試合も成長の転機に
村上の成長の大きなきっかけとなったのが今春3月2日に行われた練習試合だ。
報徳学園との試合で、センバツを控えた今朝丸裕喜投手との投げ合いに多くのスカウトがスタンドを陣取った。両投手が先発し共に3回を投げ、今朝丸は2安打無失点、村上は3安打4失点。完ぺきに封じ込んだ今朝丸に対し、村上は彩星工科戦のような、走者を背負ってからの力みが解消されていない印象も受けた。
試合後、岡本監督は村上にこう語りかけたという。
「(今朝丸と)差がついたな。このままだったらもっと差が開くぞ」
村上に、この言葉が重くのしかかった。
「県内では今朝丸君が一番注目されていた投手。でも、自分は本当にヤバイな。ドラフトにかからないかもしれないって思いました。個人として実力で負けているとは思っていなかったですけれど、あの高さからあのスピードのボールを投げられたら、初見だったら難しいですよね。ただ、あの試合で危機感はかなり持ちました」
春の県大会では今朝丸はベンチを外れていたが、村上はエースとしてマウンドに立ち続けた。
初戦の八鹿戦では14個の三振を奪い公式戦初完封勝利を挙げると、次戦の神戸国際大付戦では6回の二死満塁のピンチからマウンドに上がり、ストレートで空振り三振を奪ってピンチを脱すると、2回1/3を投げ2安打無失点。試合は1-3で敗れたが、4個の三振を奪い「7~8割の力で投げられた」と納得の表情を見せた。