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「負けて悔しくないんか?」DeNAを“日本シリーズ王手”に導いた桑原将志の猛ゲキ…“全員一丸”を引っ張るガッツマンの「7年前の悔しさ」とは
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byNaoya Sanuki
posted2024/11/01 17:02
第3戦ではホームランを放つなど攻守でDeNAに勢いをもたらしている桑原
あれから7年の月日が経った。入団5年目の2016年にレギュラーになったが、その後、不振によりスタメンを外されることもしばしばあった。だが、持ち前の根性で真摯に野球に向き合ってきた。すでに2011年のドラフト同期は全員がチームを去り、桑原だけがとどまっている。
「皆が厳しい世界ってわかっているんで、結果が残せない者は、この世界を去っていかなければいけないんですよ」
30歳に差し掛かるときのことだ。話していると、そう桑原はつぶやいた。とてもシリアスな表情だった。
もがき、しがみつきながらやっている
「僕もね、絶対にそうなるまいともがき、しがみつきながらやっています。一度も自分は大丈夫だなんて思ったことはないですよ。正直、いつも不安ですよ。でもそれに打ち勝てるように」
華やかではある一方、明日がわからない非情な世界。そう言うと、桑原はちょっとだけ表情をゆるめて続けた。
「まあ、いつも不安と言いましたけど、四六時中そういうわけではないですよ。ふとしたときにポンって思い出すんです。けどその程度ならストレスになりません。やっぱ思い込みって一番怖いじゃないですか。なるべく、自分を追い込まないように」
そして照れくさそうに笑って言うのだ。
「余裕はないけど、立場的に堂々としておかなければいけないですからね」
桑原という選手は、入団したときから誰もが認めるムードメーカーだ。同僚のタイラー・オースティンは「一番面白いチームメイト? それはクワだよ。クワはいつだって俺を笑わそうとするからね」と愉快に述べている。
だが一方で、繊細な精神の持ち主でもある。恐れがあるからこそ、誰よりも練習をして、誰よりも準備する。悔しいときは、悔しさを表に出し、今でこそなくなったが、以前は暗い背中を人に見せてしまうこともあった。他人を寄せ付けない雰囲気を醸し出してしまうのは、野球に真剣に向き合っているゆえのことだ。