バレーボールPRESSBACK NUMBER
「お前のせいで負けた」男子バレー小野寺太志に届いた誹謗中傷…それでも“笑って消化”した理由「辞めたいなんて…1ミリも思わなかった」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph bySV.LEAGUE
posted2024/10/31 11:06
サントリーサンバーズ大阪で主軸を担う小野寺太志(28歳)。パリ五輪で共闘した“先輩”と競い合いながら、SVリーグを盛り上げる
第5セット、苦しんだ末にようやく手にしたこの試合4度目のマッチポイント。小野寺のサーブはネットにかかったが、当然、狙いがあった。
「ゾーン5方向(ネットを正面に見て左後方)に切れていくサーブを打ちたかったんです。そこに入るのが左利きの(アレッサンドロ・)ミキエレットなので、左側で取らせて助走に入るのを遅らせたかった。入れればディフェンスできる確信もあったからエースをとらなくていいとは思ったけど、この1年、僕はずっとサーブが悪くて、何とかして取り戻したいとチャレンジし続けてきたから、あの場面で狙いを持って打てなかったら意味がないと思った。自分なりに攻めた結果でしたけど、ミスしたのは事実。責められても仕方ない、とは受け入れていました」
意図のないミスではない。その直前には小野寺のサーブでブレイクしている。わかる人が見れば、小野寺のプレーを責めることはできないだろう。しかし、多くの人が見る五輪では、たった1本のミスが標的になった。
試合直後から小野寺のSNSには数えきれないほど誹謗中傷の言葉が届いた。最も「やりきれない」と思ったのはインスタグラムに届いたコメントだったと振り返る。
「文句を言う人と、擁護してくれる人。その両方がコメント欄でバトルしているんです。閉鎖すればいいのかもしれないですけど、僕はひどい言葉を投げられても全然気にしていなかったし、バレーボールを辞めたいと思う気持ちなんて1ミリもなかった。むしろそういう言葉を親が見たり、関係ないところでもめているのがしんどいな、と。嫌でしたけど、文句を言えば火に油を注ぐだけなので相手にしない。オリンピックってそれだけ注目される舞台で、俺も有名になったんだ、ってプラスにとらえて、ひどいコメントはスクショして周りの選手に見せて、笑いながら消化しました」
負けられない“2人”との対戦
よくも悪くも高まった熱を、これからのバレーボール界につなげたい。
小野寺にしてみれば、SVリーグは「感動した」と伝えてきた人たちにも、「お前のせいで負けた」と言ってきた人たちにも見てもらえる、うってつけの機会でもある。
身長202cmの高さを活かしたブロックやスパイク、さらにはレシーブやトス、もちろんサーブも、一つ一つのプレーに意図を乗せ、バレーボールの面白さが伝われば最高だ。
小野寺自身にとってもSVリーグだからこそ味わえる楽しみがある。「あの2人以外とは同じ関係は築けない」と信頼する山内晶大、高橋健太郎という最高のライバルとの対戦だ。
「イタリア戦の翌日、3人で凱旋門に行ったんです。めちゃくちゃ楽しかったし、バレーになればお互いがお互いにアドバイスしながら戦える。こんな関係、なかなか築けるものじゃないし、だから毎回、対戦するのは楽しい。負けられないですよね」
かけがえのないライバルと、ネットを挟んで対峙する。駆け引きの一つ一つを楽しみながら、勝負に勝って試合も勝つ。
まだまだこれからも、負けないよ。
勝利の瞬間は、会心のガッツポーズで雄叫びとともに喜びを爆発させる。かもしれない。
〈つづく→高橋健太郎編〉