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小椋藍、家族の献身に支えられ15年ぶりのMoto2日本人王者に! 残り2戦で披露される全開の走りに注目せよ
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2024/10/31 11:02
タイGPで2位となってチャンピオンを確定させ、表彰台で笑顔を見せる小椋
「欲しいものは練習用のバイク。それを運ぶかっこいいトランポくらいかな。クルマも時計もおしゃれにもまったく興味がないしどうでもいい」という藍にとって、何よりも手に入れたかったのが「世界チャンピオン」という称号だった。
今年のMoto2クラスはオフィシャルタイヤがダンロップからピレリに変わった。その点において、チームにとってもライダーにとってもイコールコンディションといえるシーズンで、タイトルを獲得したのはだれよりもバイクに乗ってトレーニングに励んできた小椋だった。
「やっとたどり着いたという感じ。今日は藍が世界チャンピオンになるのを見たし、次に見たいのはMotoGPで走る藍の姿ですね」
次なる挑戦をも支えていくであろう正治さんは、仕事が休みの日は姉弟のためにサーキットに通い、いまでも小椋の練習の日は仕事を休んでメカニックを務める。最終戦バレンシアGPにはチャンピオン表彰式と、最終戦の後に行われるMotoGPの初走行を見るために家族全員でかけつける予定だ。
そんな父に「いっぱい稼げるようになったらプレゼントしたいものがある」と語る小椋がいま楽しみにしているのは、残り2戦のマレーシアGPとバレンシアGPでどんな走りができるのかということ。
残り2戦で披露する全開の走り
「シーズンが始まったら転んではいけないし、いつもチャンピオンシップを考えているしで、制限のある走りをしている。だけど、マレーシアとバレンシアは、初めて制限もなく緊張感のないレースができる。どんな風になるのかすごく楽しみ。レースを始めてから、こんな経験したことがないから……」
チャンピオン獲得から連戦となる第19戦マレーシアGPの舞台セパン・インターナショナル・サーキットは、アジアタレントカップにデビューして以来、小椋がいままで一度も表彰台に立ったことがないサーキットのひとつである。タイトル争いを繰り広げた22年は転倒リタイアに終わり、小椋は首位から転落。最終戦バレンシアGPで自力でチャンピオンを決める可能性を失い、シーズンを2位で終えた。
あれから2年。世界チャンピオンとして迎えるマレーシアGPとバレンシアGPは、これまで経験したことがない最高の気分で走ることになる。
アジアタレントカップで世界に出てから10年。小椋が好きな言葉は、ホンダの育成シリーズ時代からの師であるアルベルト・プーチHRC監督の言葉である。
「調子はどうだ? 調子がいいのなら全力で行ってこい」
小椋にとってMoto2クラスの集大成となるラスト2戦は、きっとその言葉通りの気分で戦うレースになるのだろうと思うのだ。