甲子園の風BACK NUMBER
ドラフト候補「最速150キロ」報道は本当か? 現場で聞いた驚き発言、球速を“盛る”ことも「あると思いますよ」…“最高球速”という数字の功罪
text by
井上幸太Kota Inoue
photograph bySankei Shimbun
posted2024/10/23 17:18
プロ注目の投手にどうしてもついてしまう「最速●●キロ」という枕詞。その功罪は?
スカウトたちは、乱立する“最速報道”に「惑わされることはない」。だが、前出のスカウトが「僕らには影響ないですけど」と言い、こう続けた。
「ファンの人たちが『すげえ速いピッチャーが入ってきた!』と楽しみにしていたら、『違うじゃん』となるケースはあると思います。単発では出るけど、アベレージにすると全然ってピッチャーもやっぱりいるし、そもそも真っすぐで押していくタイプじゃないこともある。ドラフト候補の情報を集めるプロ野球ファンの人が惑わされる部分はあるんじゃないですかね」
ドキリとした。散々言っておきながらだが、私も一書き手として「最速●●キロ」という表現を使うことはある。もちろん、「話題の最速よりも、安定感に魅力」のように少しでもその投手の魅力が伝わる努力はしているつもりだ。だが、行数や誌面のスペースに限りのある紙媒体だと、「平均球速が▲▲キロに達し、回転数も豊富な~」などと書こうとしても書き切れない現状もある。その点、最速表示はコンパクトかつインパクトを持たせられるという、便利さがある。
村上投手の運命は……
話を神戸弘陵の村上に戻そう。村上はその後、2年時の別の練習試合でも自己最速タイの152キロを計測。3年夏直前には、1年越しに自己最速を更新する153キロをたたき出した。監督の岡本が言う。
「あらゆる面で成長していたし、スカウトの方にも評価していただいたんですけど、最速が1年前から変わってないのはなあ……と。そう思っていたら、152からちょうど1年後、あのときと同じ益田東のグラウンドでの練習試合で、153が出たんです」
1年前と同じ状況で実現させた自己最速更新。村上にとって、あのグラウンド、あのマウンドは、ターニングポイントになる場所だったのだろう。
「結局お前も球速しか触れてないじゃないか」と言われないよう、情報を補足する。下級生時代は制球に不安があったが、岡本曰く「スカウトの方々から1年で速くなるピッチャーはいくらでもいるけど、ここまでコントロールがよくなるピッチャーはなかなかおらんと言われました」と、制球力をはじめとしたゲームメーク能力も大幅に向上させている。
12球団から調査書の提出を求められ、24日のドラフトは「上位候補」として迎える。
繰り返しになるが、私は村上が再び152キロを出したと聞いたとき、プロ注目投手に羽ばたいたと聞いたとき、安堵したものだ。
そして、24日、村上の名前が無事呼ばれたとき、きっと私は今まで以上に深く、深く安堵する。