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“格下の高校生”だった井上尚弥に敗北「試合後、初めて泣きました」後の世界王者たちを撃破“アマ最強ボクサー”は高校教師に…柏崎刀翔の壮絶人生
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph byNaoki Fukuda
posted2024/10/11 11:42
アマチュアボクシングのトップ戦線で長く活躍した柏崎刀翔。寺地拳四朗や京口紘人、重岡優大(写真右)をはじめ、のちの世界王者からも勝利を収めている
新しい父「おまえ、根性ねえな。格闘技をやれ」
柏崎は1991年1月7日、石川県加賀市で生まれた。小柄でやせ細った少年は、友人たちにちょっかいを出すのが好きないたずらっ子。人生が大きく動き出したのは、母が再婚し、新しい父がやってきてからだ。父は突如、「土日はモトクロスをやるぞ」と言い出し、50ccのバイクを購入した。山道を猛スピードでジャンプする。柏崎が「怖い」と言えば、「おまえ、根性ねえな。格闘技をやれ」と怒鳴られた。
小学3年の終わりに、父が見つけてきた小松ボクシングジムに入門した。ジム生は大人ばかり。しかも鏡に向かってジャブを打つだけ。一歩前に出てパンチを放ち、すぐに下がる。時折、航空自衛隊小松基地の隊員が相手を務めてくれたが、どうにもつまらない。ジムに行きたくない。練習の時間になると腹痛が襲ってくる。
「行かなくてよくなると、なぜか治る。だから、お腹痛い作戦も2、3回しか使えなくて、なんだかんだで続けていましたね」
父は往復1時間かけてジムに送り迎えをし、練習の2時間も目を凝らしていた。家に帰ると、酒を飲んで酔っ払い、練習やスパーリングの動画を見ては「ああしろ、こうしろ」と言ってくる。
「熱心というか、『なんだよ、酒のつまみかよ』と思って、すごく嫌でした。言うのは簡単ですよ。だけど、それをできるようにするためにはどうすればいいか、全部自分で考えないといけないので」
元世界王者と偶然の出会い…初めて見た“WBCのベルト”
小学6年のとき、横浜さくらジムの「ちびっこボクシング大会」に初めて臨んだ。柏崎は体重が30kgに満たず、最も小柄だった。大きな対戦相手に勝ち、MVPを獲得する。
「ボクシングってめちゃくちゃ楽しいな、と思いました。その後に小松ジムに行くと、見たことのない外国人が来ていたんです」
メキシコ出身のヘルマン・トーレスと名乗る元世界チャンピオン。新しくジムのトレーナーとなり、柏崎はトーレスの長男・利幸、次男・健文と一緒に練習することになった。
「ヘルマンは指導がうまくて、肘を傾けて『レバーを守れ』とかディフェンスが中心なんです。たまに、外側から弧を描くようなパンチや、背の高い相手を追い詰める、メキシコの実践的な攻撃も教えてもらいました」
そこでヘルマンのチャンピオンベルトを初めて見た。緑色でかっこいい。プロボクサーになってWBCの世界チャンピオンになりたいと本気で思った。