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“格下の高校生”だった井上尚弥に敗北「試合後、初めて泣きました」後の世界王者たちを撃破“アマ最強ボクサー”は高校教師に…柏崎刀翔の壮絶人生
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph byNaoki Fukuda
posted2024/10/11 11:42
アマチュアボクシングのトップ戦線で長く活躍した柏崎刀翔。寺地拳四朗や京口紘人、重岡優大(写真右)をはじめ、のちの世界王者からも勝利を収めている
「インターハイなんて優勝して当たり前」父の重圧
利幸と健文がプロを目指し、ヘルマン一家は東京のジムに行くことになり、「おまえも一緒に来ないか」と誘われた。柏崎は飲んだくれの父から「早く世界チャンピオンになって、楽をさせてくれ」と言われることが多かった。
「めちゃくちゃ東京に行きたいし悩んだけど、そこまでの勇気がなかった。中学校が終わるまでは地元にいようと思ったんです」
その後、ヘルマン一家は東京のジムとの折り合いがつかず、大阪へと移り住んだ。柏崎もヘルマンのいる関西のジムを訪ねるようになっていった。次第にプロボクサーの現実を知ることになる。
「今でこそわかるんですけど、4回戦のボクサーとかが、チケットを何枚売らないといけないとか、いくら手元に残るとか……。プロでやるなら手に職がないと無理だな。工業高校で電気工事士の資格を取ろうと思ったんです」
プロボクサーだけで食べていくのは難しい。手に職をつけ、夢と生活を両立する術を考えた。現実的な人生設計をして、石川・大聖寺実業高に進んだ。
「ボクシングは楽しかったですよ。ただ、結果を出さないとやばい。父から『おまえ、子供の頃からやっているんだし、高校終わったらプロになるんだからインターハイなんて優勝して当たり前だからな』とむっちゃプレッシャーをかけられていましたからね」
エロ本を読むインハイ王者に「こんなに余裕なのか…」
高校生になっても体重は39kg。最軽量級の下限に届かず、増量して試合に臨み、インターハイ出場権を勝ち取った。試合会場の大阪・熊取町立総合体育館に到着し、選手が控えている場所へ。そこで目に飛び込んできたのは、これまで試合会場で見たことのない光景だった。
「これ、やべーな」
大声でそう言いながら、エロ本を読んでいる選手がいた。よく見ると、前年度のチャンピオンだ。柏崎はその姿に驚いた。
「内心では、『おまえがやべーよ』とツッコみました。だって、インターハイの試合会場ですよ。すごく楽しそうにしている。こんなに余裕なのか、都会の高校生は違うなとビビりましたね」
目に焼き付いたエロ本を読みふけるチャンピオン。怖じ気づいた柏崎は完全に会場の雰囲気にのまれ、1回戦で敗退した。