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「秋広、見ててつまんなくなかったですか?」巨人・阿部慎之助監督の辛口采配…100通り以上の“日替わりオーダー”でも、優勝を狙えるワケ
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byJIJI PRESS
posted2024/09/19 11:04
球審に選手交代を告げる巨人・阿部慎之助監督。今季100通り以上の“日替わりオーダー”を組んで首位に立っている(9月18日現在)
「もう困ったときのベテランを並べた」
丸との1、2番をこう説明した阿部監督。坂本の2番起用は6月12日の楽天戦以来と約3カ月ぶりだったが、その起用がズバリと当たったのである。1回の第1打席だ。広島先発の森下暢仁投手から左翼へ先制の6号ソロ。重苦しいムードを一気に吹き飛ばして主導権を握ると、チームは6対1で快勝した。
今季も1勝4敗と大きく負け越し、鬼門といわれたマツダスタジアムでの戦い。逆境を振り払うために指揮官が頼ったのがベテランの経験と度胸、思い切りの良さだったが、坂本がその期待に応えた。そしてこの大一番でのベテラン起用に、思い出したのは1989年の日本シリーズで藤田元司監督が見せた決断だった。
ベテラン選手は「ムードに飲まれない」
近鉄とのシリーズ。初戦からいきなり3連敗した崖っぷちの第4戦で藤田監督は、37歳になったベテランの簑田浩二外野手を1番で先発させたのだった。
「“アレ、アレッ”という感じで3つ負けて、みんな地に足がついていない感じだった」
後に藤田監督から聞いた話である。
「そういうとき大舞台で実績のあるベテラン選手というのは、どういう風に心を整えるかを知っている。ムードには飲まれない。それが経験なんだ。だからここは簑田の力を借りようと。3戦目に負けた瞬間に、第4戦の先発を決めた」
簑田は1年前の88年に阪急から移籍してきたが、阪急の黄金時代を支え、日本シリーズの出場経験も豊富なプレーヤーだった。ただこのシーズンはわずか37試合の出場で打率2割4分1厘の2本塁打。それでも大舞台での経験、実績を買い、浮き足立ちそうなチームを落ち着かせるために、藤田監督はこのベテランの力を借りる決断をしたのである。
第4戦に「1番・右翼」で起用された簑田は、1回に左中間二塁打を放つと、1死三塁からセンターへの浅い飛球で本塁に突入して先制の1点を刻んだ。この先制点で悪い流れを断ち切った巨人は、先発・香田勲男投手の好投もあり5対0と完勝。3連敗から4連勝と日本シリーズ史に残る大逆転劇を演じた。そのすべては、この「1番・簑田」から始まったのである。
“猫の目打線”だから生まれる強さも…
阿部監督が坂本を2番で先発起用したのも同じ考えだった。