甲子園の風BACK NUMBER
「LINEが120件きて…」高校野球“0勝なのに”会いたい人が殺到中の監督…何者? リアルな評判「距離感がバグってる」「季節ごとに収穫物を玄関に」
text by
樫本ゆきYuki Kashimoto
photograph byYuki Kashimoto
posted2024/09/11 11:02
加美農を率いる佐伯友也監督、37歳。なぜ全国の指導者は佐伯を訪ねるのか
「人脈づくりを頑張っています。佐伯先生の真似をして名刺を150枚配り歩いて、強豪校とのつながりも持つことです。宮城で東北大会があったとき、盛岡大付さんや福島の光南さんにうちのグラウンドを使っていただいて、うちの現状を知ってもらいました。そして他校とのこういう交流をさりげなく学校でも話題にして、野球部の存在価値を伝えています」
加美農の経験があるから進む道は見えている。
例2)宮城工「バズってしまった」
前出の宮城工・冨樫監督は、今年の1月に野球部公式インスタグラムを開設。その効果か今年は選手21人、マネージャー3人が入部し部員43人になった。ここ数年、高校で野球を続けない中学生が増えてきたこともあり、ただ待っているだけではダメだと悩んでいた。佐伯監督の行動力を見習い、科学的トレーニングや、練習器具の修理(DIY)などの動画投稿を始めると、保護者や野球関係者から意外な反響があった。「インスタを見て来ました」と言う新入生がいたり、SNSの交流で県外遠征が決まったりと、影響力の大きさに驚いている。特に、再生回数116万回のナックルボーラー動画や、生成AIを使ったアニメーションなど、デジタル世代の中学生に刺さる投稿が大人気だ。「バズるわけないと思っていたら、バズってしまった。佐伯先生ほどじゃないけど、とにかく行動することで何かが変わると思ってやっています」。
インスタには「野球と技術者の『人生の二刀流を目指そう!』」と書き、工業高校の独自性を売りにしている。この秋の中部地区大会で仙台商に4-3の2試合連続サヨナラ勝ち。5年ぶりの県大会出場を果たした。
「小規模野球部にはロマンがある」
佐伯監督は「これからは小規模野球部に合った考え方や勝利への導き方が重要」と力説する。
「日本は人口の分母が減っていくので、加美農みたいな小規模野球部が増えていくと思うんです。そんな中で、悪あがきじゃないけど、指導者たちのつながりで力を合わせて励まし合って頑張っていきたいんですよね。小規模野球部には、ロマンがありますよ」
農業科の教員である佐伯監督に以前「農業のおもしろさって何ですか?」と聞いたことがある。この時、答えていたのが「すぐに結果が出ないところですかね」だった。そういえば、「蒔く」という字は、草かんむりの下に「時」が入る。農耕が基盤だった古代の人々にとって、種を蒔くことは、人間の期待や希望が込められる大切な行為だった。
加美農に来て7年。蒔いた種は各地で確実に芽生え始めている。まだ果たせていない自チームでの公式戦初勝利も、時間をかけてじっくり待つと決めている。〈つづく〉