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「コイツ、異常だな」パリ五輪“じつは無印だった日本人”の番狂わせ…男子レスリング“金メダル量産”の全貌「いったい誰が優勝すると思っていた?」
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2024/09/08 17:12
パリ五輪前の下馬評では“無印”に近い存在だった清岡幸大郎。コーチも驚く強心臓で世界の頂点まで駆け上がった
樋口は東京五輪の出場を懸けたアジア予選で計量失格してしまっているので、今回も“もうひとりの敵”として減量をあげる声は多かった。パリ五輪では、女子50kg級の優勝候補だった須﨑優衣を初戦で破ったビネシュ・フォガト(インド)が翌日の決勝に向けた計量を失格。ルールにより最下位になってしまった。
自分と似たような境遇に置かれたビネシュの気持ちを樋口は慮る。
「東京五輪前の失敗で挫折や絶望を味わったので、彼女の気持ちはわかる。でも、そこからが大事。もちろんこれはスポーツだけではなく、普段の仕事、勉強、人間関係でも同じことだと思うけど、そこからいかにして立ち直るか。どう次の目標に向かうかで、成長できるかどうかが決まる」
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果たして今回樋口は計量を見事にクリア。減量に失敗したときには肌がカサカサになったり、ヘルペスを発症したりするが、そういった症状とは無縁の肌艶をしていた。それだけ減量がうまくいっていたのだ。
「6月にハンガリーで(規定より)2kgオーバーの大会があったけど、そこから戻しすぎないようにしていました。60kgまでは脂肪を削り、残り3kgは脱水でなんとか計量をやりきった感じですね。脂肪を落としている期間がうまくいったので、脱水しても試合では質の高いパフォーマンスができた」
「10回やって10回勝てない相手」に勝利してパリへ
減量に勝った時点で、樋口の活躍はある程度予見できた。そんな樋口と日々激しいスパーリングを繰り広げることで急成長を遂げ、今回のパリ五輪でも結果を出した者がいる。男子フリースタイル65kg級で金メダルを獲った清岡幸大郎(三恵海運)だ。
ちょうど1年前、清岡はまだ学生レスリングで活躍する選手に過ぎなかった。転機は昨年12月、パリ五輪出場の第一歩が懸かっていた全日本選手権で訪れた。準決勝で東京五輪金メダリストの乙黒拓斗(自衛隊)をシーソーゲームの末、撃破したのだ。22歳のビッグアップセットに、場内は沸きに沸いた。