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「コイツ、異常だな」パリ五輪“じつは無印だった日本人”の番狂わせ…男子レスリング“金メダル量産”の全貌「いったい誰が優勝すると思っていた?」
posted2024/09/08 17:12
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
Asami Enomoto/JMPA
日本で勝てば、世界でも勝てる。
今も昔も日本の女子レスリングはそう言われることが多い。2019年6月の全日本選抜選手権50kg級では世界王者の須﨑優衣、全日本王者の入江ゆき、リオデジャネイロ五輪金メダリストの登坂絵莉という3名が揃い踏み。現役王者による東京五輪の出場権を懸けた争いは話題となった。
では、男子はどうか。パリ五輪の結果を見る限り、その言葉は日本の男子レスリングにも当てはまる。男子フリースタイルで2個、男子グレコローマンスタイルで2個と計4個の金メダルを獲得した。その数は女子と同数だ。
「女高男低」だった日本のレスリング界…なぜ躍進?
2004年のアテネ五輪で女子レスリングが採用されて以来、日本のレスリングは「女高男低」と言われても仕方ない状況が長く続いた。金メダルを量産する女子に比べ、男子はなかなか頂点に立てない状況だったのだから無理もない。
今回、男子グレコローマン60kg級の文田健一郎(ミキハウス)と同77kg級の日下尚(三恵海運)のセコンドに就いた笹本睦コーチは、2日連続で教え子と抱擁を交わすという至福の時間を味わった。
「日本だと女子やフリースタイルが注目を集めることが多くて、グレコローマンは全然……という時代が長かったですからね」
笹本コーチは日本のグレコローマン躍進を次のように分析する。
「やっぱりグレコの先生が小さいときからしっかりと教えていることが大きい」
文田の恩師は父・文田敏郎さん。長らく韮崎工業高校でレスリングを教えてきた名伯楽だ。パリ五輪女子68kg級で銅メダルを獲得した尾﨑野乃香(慶応大)も、週に一度泊まりがけで敏郎さんの指導を受けていた。
「父のレスリングはしつこいというか、細かい。相手の腕を抑える指の位置も『ここに引っかけて』みたいな感じで指導します。しかも、すごく時間を割いて教える。僕のときは1日4、5時間やっていました。選手が技術を習得するという面に関していえば、日本のトップだと思います」(文田)
日下尚を育てた“最強監督との猛特訓”
一方、日下が強くなった要因として笹本コーチは「素直さ」を挙げた。
「いろいろな選手を見ているけど、こちらが指示を出しても、なかなかその通りにできない選手が多い。でも日下選手は『行け!』と言ったら、そのタイミングで行ける。そういう反応の早さが外国人勢にとっては脅威なのかなと思いますね。練習では結構やられることが多いけど、実戦で勝ち切ることができるのはそこも要因だと思いますね」