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「コイツ、異常だな」パリ五輪“じつは無印だった日本人”の番狂わせ…男子レスリング“金メダル量産”の全貌「いったい誰が優勝すると思っていた?」
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2024/09/08 17:12
パリ五輪前の下馬評では“無印”に近い存在だった清岡幸大郎。コーチも驚く強心臓で世界の頂点まで駆け上がった
もっとも、湯元コーチは乙黒戦のひとつ前の準々決勝で実現した同門の山口海輝(日体大助手)との一戦を清岡の転機としてあげた。
「それまで練習で山口とやったら10回やって10回とも勝てない。そういう相手に試合では勝った。そこから乙黒戦も決勝も勝って、五輪への道を歩む権利を得たんです」
「コイツ、異常だな」コーチもビックリの強心臓
清岡は極めて実戦に強いタイプということか。パリの決勝の相手がラフマン・アモウザドハリリ(イラン)に決まったときも、湯元コーチは少しだけ弱気になった。
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「決勝までのラフマン選手は無失点のうえに、初戦以外はすべてテクニカル・スペリオリティ(10点差以上のコールドゲーム)で勝ち上がってきている。対照的に清岡は、結構点数をとられながらの決勝進出でしたからね」
関係者の中でも「ラフマン有利」を唱える者は多かった。案の定、先制点を奪ったのは相手の方だったが、清岡は必殺のリンクルホールドを連発して大差を付け勝負を決めた。リンクルホールドとは股間に差し込んだ頭を起点に相手を回転させて得点を奪うテクニックだ。清岡は高校時代、この必殺技を現在UFCで活躍する中村倫也から伝授されたという。
全日本選手権同様、番狂わせを起こした清岡は世間をあざ笑うかのように呟いた。
「いったい誰が優勝すると思っていたんでしょうね。僕だけは自分が絶対優勝すると信じていましたけど」
清岡はドラゴンボールの孫悟空のような主人公になりたいと願うなど、ヒーロー願望が人一倍強い。それを証明するかのように湯元コーチはこんな逸話を教えてくれた。
「入場時、清岡はいつも子供がテーマパークに行くようなワクワク顔をしていたんですよ。(五輪という緊張感が漂う環境の中で)コイツ、異常だなとも思いましたよ」
ヒーローになりきれる者は強い。金メダルを獲得した4人全員が、それを証明したパリ五輪だった。