ボクシングPRESSBACK NUMBER

「柔らかかった」世界バンタム級王者・中谷潤人がいま明かす“1回衝撃KOの真相”「試合前からボディーは当たる気がしていた」 

text by

二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

PROFILE

photograph byShigeki Yamamamoto

posted2024/09/05 17:03

「柔らかかった」世界バンタム級王者・中谷潤人がいま明かす“1回衝撃KOの真相”「試合前からボディーは当たる気がしていた」<Number Web> photograph by Shigeki Yamamamoto

完璧な1回KO勝利でWBC世界バンタム級王者を初防衛した中谷潤人。衝撃のKOシーンについて真相を明かした

 フェイントを入れてから右ジャブでガードを叩く。反撃に来ないとみるや、ワンツーでガードを上げさせてアストロラビオの視界を封じてから、がら空きとなったみぞおちに向けてパンチをスッと押し込んでいく。試合を終えた直後、リング上での「柔らかかった」との感想は、相手がまったくの無警戒だったことを意味する。

 中谷は言う。

「ルディの言葉もあって、最初から上を思い切り打っていくと相手も意識するようになってくれたので(ボディーは)その流れで出たパンチでした。別に考えて打ったわけじゃないです。空いていたところにスムーズに出たという感じで。これもスパーリングとか実戦的なトレーニングをたくさんやってきた成果なのか、と。相手の状態を見て、体が自然と反応しましたね」

一滴のミスも許さない至高のボクシング

 ボディーに帰結するファイトプランが別にあったわけではなかった。自分のパンチを警戒させる。もぐりこむことが難儀だと躊躇させる。多彩なパンチで体と思考の動きを止めさせる。本人からすれば、相手の心を袋小路まで追い込んだときに最もダメージを与えるパンチをチョイスしたに過ぎない。

 非の打ちどころがない完璧な1回KO勝利の初防衛。それでも遠いレンジからボディーを当てられたことに「そこは次回に向けての反省点」とも語る。一滴のミスすら許さない至高のボクシングへの志向。敬愛するリカルド・ロペスが重なるほど、精密機械ぶりが板についてきた。

 ノーリスクでこのボクシングはできない。姿勢を低くするのは攻撃のみならず「立った状態でパンチをもらいたくはなかったので」と防御の側面もある。接近戦や打ち合いも想定して、どんな戦いになろうとも己が勝つという準備と信念が、威圧となって相手をフリーズさせたのだとは言えまいか。

 彼が言う、実戦的な練習の成果。信頼を置くルディトレーナーとの日々なくして、中谷潤人を語ることはできない――。

<後編に続く>

#2に続く
“衝撃の1回KO”世界3階級制覇王者・中谷潤人が語る「過去イチきつかった地獄の砂漠トレ」…金メダリスト・阿部一二三から刺激を受けた会話とは

関連記事

BACK 1 2 3
中谷潤人
ビンセント・アストロラビオ
井上尚弥
アンドリュー・モロニー
井上拓真
西田凌佑
武居由樹

ボクシングの前後の記事

ページトップ