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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「柔らかかった」世界バンタム級王者・中谷潤人がいま明かす“1回衝撃KOの真相”「試合前からボディーは当たる気がしていた」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byShigeki Yamamamoto
posted2024/09/05 17:03
完璧な1回KO勝利でWBC世界バンタム級王者を初防衛した中谷潤人。衝撃のKOシーンについて真相を明かした
「試合前からボディーは当たる気がしていたんです。ただ、ああいうストレートじゃなくて、曲がったボディー。(アストロラビオとの)距離が近くなることを想定して、練習でもたくさん打っていました。相手の得意な距離でも打ち勝つことができれば、自分のリズムになると思っていましたから」
曲がったボディーとはすなわちフック、アッパー系のパンチ。中谷のボディーショットは強烈で、最近でもWBO世界スーパーフライ級王者時代の初防衛戦(2023年9月18日)では好戦的なスタイルのアルヒ・コルテスに対して5ラウンド、“曲がった左ボディー”で最初のダウンを奪うと右ボディーを含めた連打で2度目のダウン。さらに9ラウンドも左ボディーで膝をつかせ、文句なしの3-0判定勝ちを収めている。
今回の対戦相手、アストロラビオは19勝14KO4敗のキャリアを誇る指名挑戦者。強打者として鳴らし、2年前にはギレルモ・リゴンドー(キューバ)からダウンを奪ったうえで判定勝利を収めている。懐のなかに飛び込んでくるアストロラビオを想定して準備していたのが、接近戦でのボディーショットというわけだ。
ルディートレーナーの指示
向き合った瞬間、簡単にはいかないな、と思ったという。
「(前日計量を終えて)体の戻し具合を見て、大きくしてきたなっていうのは思ったので。パンチに耐えられる体っていうんですかね。(距離が)近くなると、ちょっと厄介かもなとは感じました」
距離を取り、懐を深く保ちつつ、いつものように集中力をマックスにしてスタートを切る。開始20秒、相手の打ち終わりに左ストレートを合わせようとする。空を切ったが、これでいい。ルディトレーナーの指示が「最初から打っていけ。ファーストコンタクトで強いパンチを打て」だった。
1ラウンドからワンツーを積極的に狙いに行く。腰の重心が低く、軸がしっかりしているため返しの右フックまでがセットだ。アストロラビオもブロックで受けるパンチの威力を警戒してか、または軌道を確認するためか、様子見が続く。中谷はさらなる情報収集をしていくべく、フリッカー気味のジャブでグローブを叩き、反応を確かめようとした。
「ジャブで自分の距離も測れますし、相手がどうしたいかを感じ取ることもできる。(グローブを叩くことで)パリ(パーリング)をするのか、それとも普通にガードするだけか。打ち返してくる雰囲気も感じてはいたんですけど、ブロックに(意識が)いっていたように思いました」
リング上の感触「柔らかかった」
アストロラビオがワンツーにより注意を払ってガードを中に絞ると、中谷は右フックで顔面の外側を叩く。多彩な右によって相手の思考回路を混乱させていくと、ブロックの時間も長くなってくる。中にもぐらせず、動きを止めて、パンチを狙う。上を叩いていけば、相手のガードも自ずと高い位置になっていく。
そしてあのフィニッシュシーンが訪れる。